国語専科-『P.S.白い貝がら』-中学受験家庭教師
『麻布』平成6年(1994年)
引き潮だ。真っ白な波が手をつないで、なごりおしそうに後ろにさがっていく。
あとには金色の砂浜が残る。おいらたちは飛ぶように砂浜をかける。やわらかい、
しめった砂が、足の指の間からはいりこんでくる。むずむず、ひやひやしていい気
持ちだ。
おじさんは、子どもと遊ぶのが好きだといった。子どもといっしょにいると、気
持ちがのびのびして、楽しくて、自分も子どもになったような気がするんだって。
おいらたちはチュおじさんが好きだから、毎日ここへきて、おじさんといっしょに
遊ぶんだ。
白い帆がいくつか、羽のようにそっとただよってきて、かすかに歌声が聞こえて
きた。まだはっきりと聞こえないうちに、その歌声は、白い帆といっしょに遠ざか
っていった。おいらたちはの目の前には、相変わらず真っ青な海が広がっている。
夕方の海風がふいてきた。すがすがしい風だ。海のにおいがする。
「チュおじさんね、おじさん、明日行っちまうぞぉ-」
「行っちまう?」
e:チュおじさんは海浜療養所にいるんですよね。
F:有名?作家みたいですね。お客さんが多いとありますから。
e:ですけど、おいらたちはにはその場限りの冷たい応対をしてますよ。
F:<ワンじいさん>と違って、ですね。
e:おいらたちはどうして、そんなチュおじさんが好きなんですかね。
F:それは゛別れ゛の時でしょう。確かにぞんざいな対応をしてますね。
療養所の正門はいつものとおりだ。はい色の石の柱に、はい色の鉄の門。入口に
すわっている、はい色の服を着たおじいさんが、たぶん、リャン・チュンがいった
<ワンじいさん>だ。
e:ワンじいさんはおいらたちの気持ちを理解してくれる
F:そうですね。゛思いやりのある大人゛として登場します。
e:じいさんですから、優しいかな?子どもたちには。それから、「はい色の石の
柱に、はい色の鉄の門」が気になります。
F:それに「はい色の服を着たおじいさん」
e:というイメージから
F:療養所にいる大人たちと同じように考えちゃいますが、
e:グレーゾーンにいる人間?「はい色の服」って、職員の制服ですかね。
F:療養所のイメージとしては暗いですね。
e:ピンクとか?
F:せめて、クリーム色とか、ですね。
e:砂浜の色に合うようにですか?
F:大人と子どもたちと゛対比゛させるために必要なんでしょう。
e:じゃ、思い切って゛黒゛は?
F:<ワンじいさん>だけは゛クリーム゛色で。
e:いつもながら、゛色゛にこだわりますね。
F:大事な要素ですから。
e:゛石゛の柱とか、゛鉄゛の門とか、刑務所のイメージだな。
F:それより、゛硬そう゛な感じがします。
e:やはり、頭の硬い大人のイメージかな?
F:あと、心もなんか゛冷たそう゛な感じですね。
e:大人になっちゃうと、心の柔らかさとか
F:しなやかさが失われますね。
「どちらさまですか」
「何かご用ですかな」
「おじさん、どうして、おいらたちにいわなかったんだい」
「ああ、いそがしかったもんでね。わすれてたんですよ」
わすれてた?仲良しの友達が別れる、そんな大事なことを、どうしてわすれるん
だ?おいらたちはもっとききたかったけど、とうとうきかなかった。
「ほかに何かご用ですか」
夕ご飯の夜、おいらたちはあの白い貝がらをとりだした。それは、チュおじさん
と初めてあった日、砂浜で拾ったものだ。真っ白で、手のひらほど大きい。とって
もきれいな、かがやく白。世界中に、これにくらべられるものなんか、ありはしな
い。~。これは、おいらたちの一番の仲良しにあげるんだって。
今日、おいらたちは、これをチュおじさんにあげようと決めた。チュおじさんに
は、この貝がらをもらう資格がある。
チュおじさんのいる建物はクリーム色。木々の緑にはえて、とてもきれいだ。
チュおじさん、おいらたちのこと、忘れたのかい。それとも、はじめっから、お
いらたちのことなんか、考えてなかったのかい。おじさんは、おいらたちにとっ
て、とっても大切な人なんだよ。だけど、おいらたちは、おじさんにとって、どれ
ほどのものだったのかな。もしかしたら、あの<のこぎり声>のおばさんがいった
ことが正しかったのかもしれない。おいらたちは、人さわがせなだけなのかもしれ
ない。
e:おばさんは大人そのもの、って感じがしますね。少しひねくれているのよう
な。
F:臍曲がり?世の中の裏事情をよく知っている、って感じですか?
おいらは、ぼんやりとおじさんを見ていた。何かが、コツンととびらにあたっ
た。あ、そうだ。あの、白い貝がらだ。おいらは、ポケットの中の貝がらをぎゅっ
とにぎりしめると、だまって、そこをはなれた。
リャン・チュンの目の中で、何かが消えた。リャン・チュンはだまって、うなだ
れた。
「お、おじさんは、きっと、わざとじゃないよ。お、おじさんは作家なんだ。
と、友達がいっぱいいるんだ。お、おいらたちは子どもだもん。お、大人ほど、大
事じゃないさ。待ってようよ。あ、明日行っちまうんだ」
おいらたちは部屋の中で、ずう-っと、ずう-っと待っていた。ベランダに出
て、海を見たい、おいらたちの砂浜を見たいと思った。だけど、見えなかった。た
ぶん、方角がちがうんだろう。
「とても大事な会議でな。出席しないわけにはいかなかったんだよ」
「きみたちといったら、ぽかんとして、どうしたんだい。おかけよ。今日はおじ
さんが、いいものをごちそうするから・・・・・・」
おいらは、心がだんだんとしずんでいくような気がした。チュおじさん、どうし
てそんなこというんだい。おいらたちは子どもだけど、大人のことだってわかる。
とっくにおじさんのこと、ゆるしてたんだ。なのに、おじさんは、おいらたちのこ
と、わかっていない!おじさんは、そんなこと、いっちゃいけないし、いう必要も
なかったんだ。だけど、いってしまった。
チュおじさんは、とても親切に、おいらたちをもてなしてくれた。そのうえ、お
いらたちを門のところまで送ってくれた。だけど、だけど、なくなったものは、も
う永遠になくしてしまった。二度ともどってはこないんだ。
砂浜まできたとき、だれからともなく、立ち止まった。
月の光が砂浜を銀色に照らし、雪が積もっているようだった。海の水は濃いあい
色で、月明かりの下で、そっとゆれている。
おいらたちの頭の上も、海のようだった。濃いあい色で、どこまでも広がってい
る。~。岸はどこだろう。そこにも、金色の砂浜があるのかな。そこでも白い貝が
らを拾えるのかな。
あっ、そうだ。白い貝がら。
おいらは、貝がらをとりだした。月明かりの下で、うっとりするように光ってい
る。なんて、清らかなんだ。ほこり一つついてない。けがれたものなんか、あっち
ゃいけない。そうだ、たとえほんのちょっとでもだ。
おいらは、貝がらを、しばらくながめてから、ゆっくりと手を挙げ大きくふりか
ぶって、濃いあい色の海に放り投げた。一すじの銀色の光と、かすかな水の音。そ
れで、あの白い貝がらは、海にもどっていった。
e:おいらたちはものごとに生き生きと、そして素直に反応していく様子がよく描
かれてますね。
F:敏感と言いますか、感受性が強いでしょう。
e:白い貝がらに象徴されるように
F:けがれのない、清らかな
e:繊細でかつ純粋な
F:無垢な心を持って
e:それを失うまいと生きている姿に心打たれます。
F:信じていた大人に裏切られ、
e:辛く、また嫌な思いも体験しながらね。
F:人の゛心の美しさ゛を最後まで信じる
e:そして、゛友情゛もでしょうね。
F:゛砂浜゛と゛白い貝がら゛そして゛海゛
e:おいらたちにとっての゛白い貝がら゛とは?
F:子どもたちにとって゛砂浜゛とは?
e:そして、゛海゛とは?
F:大人と子どもたちを゛無心゛にさせてくれ
e:心を癒し
F:汚れのない心を育んでくれる
e:海って、われわれの゛ルーツ゛ですよね。
F:我々は何処から来た?
e:やっぱり、゛海゛でしょう!
F:゛海゛は気高い存在だと
e:この物語を読んで感じました。海よ 広いな 大きいな・・・ところで、チュお
じさんって本当はいい人なんじゃない?
F:本当はおいらたちのことを考えている?
引き潮だ。真っ白な波が手をつないで、なごりおしそうに後ろにさがっていく。
あとには金色の砂浜が残る。
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