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2009年5月

expertFORUM  中学受験家庭教師-『萌の朱雀』-国語専科

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河瀬直美 「萌の朱雀」



【MARCデータベースより】

恋しい人を想いながら、悲しみを抱えながら、幾千年も前の人たちも、あの山を見つめていたのだろうか。奈良の山村に暮らす家族。その静謐な日常をとおして、少女は受け継がれていく生の意味を知り始める。映画作品の小説化。




 父を失ってしまった後の私たちの中で、よく考えてみれば一番冷静なばあちゃんが、実は一番深い悲しみを抱えているのではないか……。
 私たちは全員、父の死によって必然的に自分を見つめなおすことを余儀なくされた。
 それまで思いつめることもなくやりすごしていた自分のある部分を、今つきつめて考えなければ存在さえ危ういことに身をもって気づかされた。
 確かでない自分には、何に対しても、何もできないことがわかりはじめた。そして自分が誰かや何かを大切にできないことを棚に上げて、確かに救ってもらいたい気持ちでいっぱいになる弱さも知った。
 だからこそばあちゃんのいつもと変わりない態度の奥には、自らに対する厳しい強さと、私たちに対する深い愛があるのだ。

 私はそんなばあちゃんに対して、返事をすることさえもできなかった自分を後悔した。



問 「返事をすることさえもできなかった自分を後悔した」とありますが、「私」が後悔するようになったのはなぜですか。



e: これは「父を失ってしまった後の私たちの中で」から

F: 「私たちに対する深い愛があるのだ」まで

e: ばあちゃんの気持ちについて

F: 「私」がどのように考えているのかが書かれてます。

e: 自殺した「私」の父はばあちゃんにとっては最愛の息子でしょう?

F: その息子を失ったわけですから……

e: ”悲しみのどん底”に今いること

F: 「私」は少しは気づいたのでしょうか?

e: 顔や態度に出さない分、どれだけ深い悲しみを味わうているか…

F: 「ばあちゃんのいつもと変わりない態度の奥には」

e: 「自らに対する厳しい強さと、私たちに対する深い愛があるのだ」ということに気づいた?

F: 「一番深い悲しみを抱えている」にもかかわらず

e: 「自らに対する厳しい強さ」と「深い愛」があることを知った。

F: ”家族愛”を強く感じたことで

e: 「何もなかったかのようにごく普通に」

F: 「どうしていつも何に対しても冷静で落ち着いていられるのだろう」

e: で、苛立ちさえ覚えていますね。

F: そういったばあちゃんにとった自分の態度を後悔したということですね。

e: 要するに、ばあちゃんを”誤解”してたんでしょ!しかし、十八歳の女性でばあちゃんの気持ち、解りませんかね……

F: 意外と”身内”の気持ちは理解できないんでしょうか?

e: ”灯台もと暗し”?

F: 気持ちの”読み取り”はやはり難しい?

e: 今は同居してないケースが多いですから

F: ますます読み取れない?

e: 生きてきた時代も違いますし

F: 当然、価値観も違ったりしますからね…

e: ところが、入試では”祖父母”が絡んできますからね…

F: ”祖父母”は物語の”主題”にも

e: ”影響大”!?

F: のこともあります。

e: しかし、この物語のように同居が

F: 必ず有利とは言えません。

e: ”灯台下元暗し”!?

F: ”もともと”ね……



 ばあちゃんと栄ちゃんは縁側で静かに月を見上げていた。

 「泰代ちゃんを実家に帰したろぅ思うんやけどぇ……」

 ばあちゃんはたんたんと話していた。

 栄ちゃんは幼き日に、自分の父や母とは別れて暮らしてきた。


 「どう思うで?」

 「うん」


 静かな月夜に、私の心の声は大きく、かかえきれないほどに多かった。



問 「私の心の声は大きく、かかえきれないほどに多かった」とはどういうことですか。



e: これ、書けますか……?

F: どうでしょうか?

e: どういう場面ですか?

F: 「泰代ちゃんを実家に帰したろぅ思うんやけどぇ……」とありますね。

e: ばあちゃんが言っていますから

F: 「泰代ちゃん」は「私」の母です。

e: そこまでは解ります。

F: 「私」の母を実家に帰そうか、という話を「栄ちゃん」としています。

e: で、「どう思うで?」とまたばあちゃんはたずねてます。

F: 栄ちゃんは一言「うん」と帰しただけですね。

e: 「心の声」とは?

F: 大きく、かかえきれないほどに多かったとは?

e: ”ヒント”はあるんですか?

F: この後に、「自分は父の代わりを務めて皆を守る者になるのでなく、自分なりの自分しかできないやり方で、皆と共に生きてゆくのだということが、わかり始めていたのだった」とあります。

e: 「ばあちゃん」、「私」、そして「栄ちゃん」

F: 「私」たち家族は?

e: それぞれの……

F: 心の持ち様は?有り様は?




「映画、それは人生に似ている」河瀬直美

「映画を作るって本当に大変なこと。それは人生に似ています」
「私たちの人生にはたくさんの困難がある。お金とか服とか車とか、形あるものに心のよりどころを求めようとするが、そういうものが満たしてくれるのは、ほんの一部。目に見えないもの---誰かの思いとか、光とか風とか、亡くなった人の面影とか---私たちはそういうものに心の支えを見つけたときに、たった一人でも立っていられる、そんな生き物なのだと思います」(パレ・ド・フェスティバルでのスピーチより)


エラソー二の河瀬直美評

カンヌ国際映画祭で最優秀新人監督賞を獲得した作品を、監督自らが小説化したものである。失礼な言い方かもしれないが、映画のストーリー本として読んでしまうには、あまりにもったいない、いい小説である。過疎地を舞台に、一家族の愛と悲劇を静かに、静かに紡ぎだしている。こんなに静かなのになぜ深い感動が得られるのか、不思議でしょうがない。わらべ唄のようにしみる逸品。(by文弱ダダ・エラソーニの部屋より)






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河瀬直美 「萌の朱雀」



【BOOKデータベースより】

恋しい人を想いながら、悲しみを抱えながら、幾千年も前の人たちも、あの山を見つめていたのだろうか。奈良の山村に暮らす家族。その静謐な日常をとおして、少女は受け継がれていく生の意味を知り始める。
世界が絶賛した第50回カンヌ映画祭カメラドール受賞作。



【これまでのあらすじ】

 父と母(泰代)・祖母に深く愛されて育った「私」は十八歳になっていた。事情があって、いとこの栄ちゃんも家族同様にいっしょに暮らしていたが、突然「私」の父が自殺し、家族は深い悲しみに包まれる。


 父のいない空間は、私たち家族にとってだけ特別だった。



問 「父のいない空間は、私たち家族にとってだけ特別だった」とは、どういうことですか。



e: 今回は河瀬直美ですか!?

F: 映画作家として一躍有名に……

e: 映画監督!そちらの方ばかりに注目されますね……小説もなかなかすてたものじゃない?

F: 「萌の朱雀」は幻冬舎文庫で出ています。

e: 映像では語らず、文章で語る?ちょっと読むと、随筆と思っちゃいますね。

F: ”大人の日記”風?

e: 子供には難しい文章表現の箇所も多々あるんじゃないですか?

F: 「麻布」「駒東」レベル以上では読みこなせるでしょう!?

e: この時期では”半分”くらい読めればいい?

F: 三分のニは読めてほしいですね。

e: できれば……この題名の意図は?

F: ”萌”は芽生えるという意味でしょう。

e: ”萌し”と書いては”きざし”と読みますね。

F: ”朱雀”は南を表す幻獣で夏・正午を意味することもあるみたいですね。

e: 物語は夏から秋ですか?

F: ”萌の朱雀”は”芽生えの夏”

e: ”芽生え”=少女?

F: ”少女の夏”

e: それじゃ”題名”にはならない!?

F: さて、「特別だった」とは?

e: これは簡単でしょう!後を読んでいくだけでかたはつきますね。

F: 後はどう表現するかだけです。

e: 「朝陽はいつもと同じ場所に差し込み」

F: 「何ひとつ変わってなかった」

e: 「新聞を読む父がいない、ということだけをのぞいて」はね。

F: 「同じ時間」「同じ口調」「変わりはない」

e: 「同じ痛み」

F: 繰り返されことばと一回しか出てこないことばがポイントです。



 朝陽はいつもと同じ場所に差し込み、山水は絶え間なく流れ落ちてくる。新聞を読む父がいない、ということだけをのぞいて、まるいちゃぶ台を囲んで私たちが朝食をとっている居間は、本当に何ひとつ変わってなかった。ただ以前よりも、家族の間の会話は少なくなっていた。

 毎朝、同じ時間に同じ口調で繰り返されるテレビの天気予報や、風が吹くと高い音色を響かせる風鈴や、なびく庭の木の葉や、お茶碗の柄も箸の形も、座り込む畳の感触さえも、変わりはない。

 だけど、心の部分にポッカリ開いてしまった穴に対処できず、来たこともない場所にいて、その上行き場もなく、さまよい続ける孤独感を私たちはそれぞれ感じていた。

 近くに、すぐ隣に同じ痛みを持つ者がいるというのに、ものすごく孤独で行き場がない。言葉で語り合ったところでそのような気持ちを確認しあうだけで、何も始まりはしない。むしろ言葉にした分だけ虚しさは一人の夜などにもっと深いものになってかえってくる。


 幼き頃、よく登っていたカミナリの木に腰かけてぼんやりする「私」を、栄ちゃんがむかえにきた。そこで、「私」と栄ちゃんは、いっしょに家に帰ることにした。

 途中、アーチの小道を通りすぎた頃、ふと見上げると見慣れた自分たちの家が闇の中にうっすらと浮かんでいた。私はぼんやりそれを見上げながら、幼き日々を想い返していた。


 すべてが断片でありながらも私の心に確かな絆ようにつながって立ち現れてきた。

 「ちっちゃい時な、この坂よう登られへんくて、栄ちゃん早く帰ってお茶飲みたいから、だっこして登ってくれてたんやんな」

 私は自分自身に語りかけるようになつかしみながら話していた。


 幼き頃と同じように一歩一歩登る栄ちゃんのリズムを体が覚えていたからだろうか?私はさっきよりも鮮明に、幼き頃の記憶を想い起こしていた。そうすると落ち着いていた心が、また一層高ぶって、後から後から涙が込み上げてきた。



問 「後から後から涙が込み上げてきた」とありますが、この時の「私」の気持ちを答えなさい。


e: ”解答要素”は二つですか?

F: 「私はさっきよりも鮮明に、幼き頃の記憶を想い起こしていた」が一つ。

e: もう一つは?

F: 「もういくらもがいても、ありはしないものへの決別の想いからくる涙だったのかもしれない」

e: 要するに、直前、直後を読めば書ける?

F: ”わかりやすく”書くことが大切ですね。

e: さあ、どう書きましょう?

F: 腕の見せどころ?

e: このあたりで”表現力”に差が出る?

F: ”随筆文的”物語文の記述のコツでしょうか?

e: 《解答例》を言ってしまえば……

F: 「な~んだ、そう書けばいいだけなの?」なんてね…



 もういくらもがいても、ありはしないものへの決別の想いからくる涙だったのかもしれない。


 その日は満月にほど近い明るい月の夜だった。母の高熱もおさまっていたのだろう、ばあちゃんは縁側で静かに月を眺めていた。


 「風呂……入りよ」

 と私たちに気付いたばあちゃんは何もなかったかのようにごく普通に言った。私はばあちゃんのそのごく普通の態度に微かな苛立ちを抱いて、返事もせず黙ったまま風呂場へ向かった。ばあちゃんはどうしていつも何に対しても冷静で落ち着いていられるのだろう。私の抱いた苛立ちは、自分にはできないことを、いとも簡単にやってしまえるばあちゃんに対しての嫉妬からくるものだった。ばあちゃんが沸かしてくれたのだろう湯につかって考えをめぐらせていると、結局は自分の情けないやるせなさに立ち返り消えてなくなってしまいたくなる。




「萌の朱雀」

奈良県西吉野村。林業低迷で過疎化が進むこの村で田村孝三一家も代々林業で生計を立てていた。そこに、鉄道を通すためのトンネル工事計画が持ち上がる。鉄道に対する人々の想いは切実で、孝三自身も自らの夢をかけてトンネル開通作業に携わる。
孝三の母幸子、妻の休む、姉の残していった子供・栄介、そして愛娘みちるに囲まれた、つつまやかながら幸せな生活は静かに過ぎていった。しかし、工事は中断され、トンネルは無惨な姿で取り残される。
15年後、孝三は働く気力を失い、一家の生計は、栄介の収入に頼らざるを得ない。みちるは”えいちゃん”と兄のように慕ってきた栄介にほのかな恋心を抱き、栄介は泰代に”母”を重ねて想いをよせる。ある日、孝三は愛用の8ミリカメラを持って出かけたまま帰らぬ人となった。そして一家はそれぞれの哀しみと想いを秘めたままこの地を離れ、それぞれの”生”に向き合いはじめる…。


河瀬直美 「萌の朱雀」幻冬舎
河瀬直美オフィシャルホームページ
1969年奈良市生まれ。映画作家中学時代からバスケットボールに夢中になり、高校在学中はキャプテンを務め、国体出場経験もある体育会系少女だった。1989年大阪写真専門学校(現ビジュアルアーツ専門学校)映画科卒業。自主映画「につつまれて」(1992)「かたつむり」(1994)が、1995年山形国際ドキュメンタリー映画祭はじめ国内外で注目を集める。劇場映画デビュー作「萌の朱雀」(1996)で、1997年カンヌ国際映画祭カメラドール(新人監督賞)を史上最年少受賞。「杣人物語(そまうどものがたり)」(1997)で、1999年ニオン国際映画祭特別賞受賞。2000年「火垂(ほたる)」は、スイスのロカルノ国際映画祭コンペティション部門にてワールドプレミアされ、国際批評家連盟賞、ヨーロッパ国際芸術映画連盟賞のダブル受賞、2001年ブエノスアイレス国際映画祭でも最優秀撮影監督賞、主演女優賞(中村優子)を受賞。家族、生と死をテーマに作品をつくり続ける映画作家。




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サリー・ワーナー 「永遠の友だち」



全米で子供たちの共感を呼んだ、ふたりの少女の絆の物語。



命が消えても、永遠の友だちになるために…。


 ケイディはこわばった筋肉をほぐそうとした。まるで、インフルエンザにでもかかったときのようにあちこちが痛む。変なの、とケイディは思った---病気なのはわたしじゃないのに。
 病気なのは、ナナのほう。

 そう、ナナなのだ。

 病気!どうしてこの言葉は、何かが壊れる音のように、あるいは扉に鍵をかける音のように響くのだろう。でも、おぞましい言葉ではあるけれど、病気のせいでわたしとナナの関係はこれっぽっちも変わったりしない。少なくとも、わたしたちは現実的な話もちゃんとできるは---それが、どんなに厳しい現実であっても---いつだって、何があろうと。



問 「病気!どうしてこの言葉は、何かが壊れる音のように、あるいは扉に鍵をかける音のように響くのだろう」とありますが、これはどういうことですか。


 そう確信しながらも、その願いがかなうよう、ケイディは背中の後ろでそっと指を交差させるおまじないをした。


問 「ケイディは背中の後ろでそっと指を交差させるおまじないをした」とありますが、この時の「ケイディ」の気持ちを答えなさい。



e: 母親はナナの病気に真正面から向き合っていますかね……

F: 「病気なのは、ナナのほう」「そう、ナナなのだ」

e: シック!

F: 「病気!」

e: 「病気のせいでわたしとナナの関係はこれっぽっちも変わったりしない」

F: 「少なくとも、わたしたちは現実的な話もちゃんとできる」

e: ケイディの方はナナの”病気”に向き合おうとしていますね。

F: 「それが、どんなに厳しい現実であっても」

e: 現実に迫りつつある”死”という

F: ”死”に直面せざるを得ない現実に

e: 「いつだって、何があろうと」

F: 関係も変わらないし、現実的な話もちゃんとできると確信しています。

e: 「その願いがかなうよう」おまじないをしたんですね。

F: ナナの母親はナナが死に直面していることについて

e: ”対話”を拒んでいますね。

F: この親の気持ち、わからないではないですが……

e: 腫れ物に触るような……

F: できれば、そういう厳しい現実には触れたくない

e: 避けて通りたい?所謂、”現実逃避”ってやつですか?

F: ”逃亡”(?)したいのは

e: ナナ自身であったりケイディであったり……

F: 結局、母親はそういう態度ですから

e: ナナが抱えている”死”に対する悩みを話すことができずにいますね。

F: 一方、ケイディの方は、ナナの”死”に対する思いを素直に受け入れることができています。

e: これができるのは今まで培った友情?

F: ”絆”を感じ取ったんでしょう。

e: ナナとケイディが女の子同士であるにも拘わらず?

F: 深い”友情”で結ばれていると

e: 実感!?”友情”を再認識し再確認した?

F: このままずっと”友情”が続くことを願っています。

e: この当たりがクライマックス?

F: この物語の”テーマ”?



 三週間後、ナナの病状はさらに悪化したけれど、奇妙なことに、ケイディのほうはいままでにないほど活力にあふれていた。

 「どうしてかはわからないんだ」

 「吸血鬼か何かになっちゃったみたいで、なんだか気がとがめるんだけれど。だってね、この家に来るでしょ、じゃじゃじゃ-ん、帰るときにはものすごく元気になってるんだもの!」

 「どうして?」ナナが尋ねた。


 「でも、さっきのはどういう意味なの?うちを出るときには元気いっぱい、って話。ガンなのは自分じゃない、って思うと嬉しくなるから?」

 ケイディは片足のつま先を伸ばし、日焼け具合を確かめた。ナナのほうがもっと日に焼けている。最近ではよく、樹木の生い茂る切り立った斜面をみはらす、細長い木のデッキに芝生用の寝椅子を置き、そこに寝てすごすことが多いからだ。


 「ううん」ケイディはゆっくり口を開いた。

 「ちょっとちがうんだ。自分がああじゃないとかこうじゃないとか、そんなふうに思ってるわけじゃないの。前よりも、いろんなことのありがたみがわかってきたっていうのかな---たとえば、わたしの脚とか」



問 「いろんなことのありがたみ」とは、どのようなことですか。



問 ナナとの触れ合いによって、ケイディはどのよう生き方をするようになると君は思いますか。



e: ナナの容体が悪化しているのにも拘わらず

F: ケイディのほうは元気になっていく?

e: 反比例!?これってどういうこと?

F: 「う-ん、脚そのものじゃないんだけどね。脚のおかげでできること、のほうかな。歩いたりとか、ね」とありますね。

e: これって、”一心同体”っていう?ひとごととは感じられない……

F: 親友のケイディもまるで”自分のこと”のように

e: 自分が病気なかかっているかの如く…

F: 結局、そういったことを経験することによって、ケイディは

e: 物事をどういうふうに考えるようになったか?

F: ”生き方”かな?

e: ”ありがたみ”(有り難み)

F: ”生きる”ことの意味?



 「なるほどね、あんたの脚か」それですべての説明がついたかのように、ナナがくりかえした。

 ケイディは笑った。

 「う-ん、脚そのものじゃないんだけどね。脚のおかげでできること、のほうかな。歩いたりとか、ね」

 ものごとはどうしてこう不公平なのか、本当はそう言いたいのだという思いが。ふいにケイディの心を揺さぶった。わたしがようやく歩きはじめたころ、ナナはもう走っていた---そしてスケートもし、踊り、自転車にまで乗っていたのに。かつてのナナは、たっぷりふたりぶんの元気にあふれていた。そう、いつだってそんなふうだったのだ。ナナが先に立ち、ケイディがそれに続く---まるで、磁石に引きつけられているかのように。

 「ほんと、たしかに歩けるっていいことだよね」ナナはうなずいた。あくびをすると、細い足をソファの花柄クッションの下に突っこむ。
 「ねえ、何週間か前に散歩に行ったの憶えてる?」その口調は、まるではるか昔のディズニーランド行きを思い出しているように聞こえた。

 ケイディは緑の目を細くして、ウェーバー家のイマの窓を見やった。ハチドリのための給水器が、日差しを受けてきらきらと光っている。
 「あのころはよかったよね、そう思わない?」
 ナナがからかうように、ケイディの膝をつついた。

 「ふたりで散歩なんか行けたころはさ。古きよき日々ってやつ。あのときは、ふたりともそのありがたみがわかってなかったけど」




カリフォルニアの美しい町に住むケイディとナナ。幸せ真っ盛りのはずなのに、ナナがガンに侵されて、別れなくてはならない。ケイディは、明るく、何事もなかったかのように毎日をナナと過ごし、そして、ナナは衰弱していく。
全米でベストセラーになったという、永遠の友だちの物語。


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国語専科ー『ブログメッセージ』-中学受験家庭教師


e:゛ブログメッセージ゛とは?

F:進度に多少の差はありますが、

e:まだ解いてないお子さんは軽い゛予習゛という意味あいですか?

F:それはないでしょう。

e:親御さんは?

F:親御さんの予習はあると思いますが。

e:それはいいんですか?

F:゛復習゛のために、このブログを活用していただくというのがメインになります。

e:そういう感じでブログは進めているんですね。

F:頭の中をおおまかに整理していただくという

e:゛授業゛を受けていれば

F:゛なるほど゛と頷けるような内容を心掛けているつもりです。

e:ブログを開設するまではもっぱらメールで?

F:そうですね。

e:メールだと大変でしょ?

F:FAXの時はもっと

e:大変だった?

F:で、やめました。

e:メールも?

F:そうですね。

e:個別対応は一見いいようですけど

F:公平を保つのが難しいんですね。

e:そうでしょう!

F:とにかく、授業後に話をするんですが

e:と言っとも、次がある時は

F:話ができずに

e:すぐ失礼しますから

F:『カルテノート』に書き忘れたものとか

e:時間的にこと細かく書く時間もないでしょう?

F:『記述』の場合は゛書く゛のに、時間は余計にかかりますね。

e:お子さんもいっぱい書きますからね。

F:゛ポイント゛を書いたり゛別解゛を書いたりで

e:いつも、手が動いてる状態?

F:しかし、文句の一言も言わないで、黙々と

e:ひたすら、書き続けるわけですね。

F:夏休みが終わる頃には

e:手が勝手に動く感じですか?

F:゛自然゛と動いていくみたいです。

e:『開成』クラスなんか、計算が速かったですよ!

F:いっせいに鉛筆を走らせる音が教室中に響きわたるって感じでしょうね。

e:中には゛計算゛しないで、一瞬に答をだすお子さんもいましたね。

F:そろばんの達人?

e:じゃなかったですよ。何回も何回も同じ計算を今までやってきたんでしょう。

F:気持ちを表すことばなんかも

e:次から次へと出てきちゃうんでしょ!

F:それも、よく知ってるな、そんなことばを。

e:声教に出てくるような

F:゛大人の言葉゛

e:と言っても、みんながみんな、ってわけにはいかないでしょう!

F:家庭の言語環境によりますね。

e:ふだんからの゛会話゛が影響するでしょうね。

F:特にお母様との対話の中で゛語彙力゛は養われますね。

e:『算数』の授業の中では対話は望むべくもないです。

F:『理科』だと、あるでしょ!

e:『社会』なんて、ほとんど対話でしょう!

F:『国語』の説明文なんか、リンクする内容も多々ありますよ。

e:環境問題は『理科』と『社会』とがダブリますね。

F:話は無限に広がっていきます。

e:『理科』や

F:『社会』で

e:使われてる゛用語゛なんか

F:『国語』の゛記述゛になにげなく、使用すると

e:内容に゛面白味゛も加わるでしょう。

F:゛深み゛もですね。表現の゛意外性゛は

e:プラスポイントでしょうね。


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サリー・ワーナー 「永遠の友だち」



【日販MARCより】

ケイディの親友ナナは、不治の病におかされている。大切な人を失う日は、もうすぐそこに…。初めて死と向かい合った二人の少女が、最期の夏にする小さな冒険。全米で多くの共感と涙を呼んだ、優しさと絆の物語。



辛さを乗り越えた末に得られる、とてもたいせつなもの。




 あの空き地を見てからというもの、ナナは壮大な計画をずっと心に抱いているのだ。いつの日かあの土地を買い、ずっと空き地のまま、自然のままにしておきたいという計画を。


 「あの植物。花が咲いているのが見える?あの花、開いてから色が変わるんだって。昨日と今日と明日で色がちがうってわけ。最初は紫で、次に薄紫になって、明日は白。母さんが教えてくれたんだ---うちの変わる、花に詳しいから。それでも、あたしはうまくいくかどうか自信ないんだけど」

 「えっ?」ケイディは何のことかわからなかった。

 「何がうまくいくって?」

 「放射線治療。あたし、やっぱりこのまま死ぬのかもしれないってこと」

 死ぬ!ケイディの胸の奥で、心臓がぴくりと跳ねたような気がした。



 問 「死ぬ!ケイディの胸の奥で、心臓がぴくりと跳ねたような気がした」時の「ケイディ」の気持ちを答えなさい。



 「まあね、結局は誰だって死んじゃうんだから」


 「それに、誰が先に死ぬかなんてわかんないよ。わたしのほうが先に、よくみんなの言っているバスにひかれて死んじゃうかもしれないんだし」


 「でも、まずそんなことは起きないよ」ナナの口調には抑揚がなく、その口もとにも笑いの影はなかった。



問 「ナナの口調には抑揚がなく、その口もとにも笑いの影はなかった」とありますが、この時の「ナナ」の気持ちを答えなさい。



e: これも、この後を読んでいけば解りますね。

F: ナナの両親がナナに対してどのように態度を取っているかの記述があります。

e: ナナの容体についてはナナの両親もよく理解しているにもかかわらず

F: ナナに治る見込みがあたかもあるかのように振る舞っています。

e: ナナのことを思っての”親心”がかえって

F: 逆に、ナナ自身がつらい思いをしていることを

e: ナナはケイディに告白していますね。

F: ナナはなんと親友のケイディにも

e: 同じ振る舞いをされたと感じたのですか?

F: ケイディも結局、親と変わらないんじゃないか、と……

e: しかし、これをどう書くか……

F: ナナは親友ケイディに対し、正直、どう感じたたかを、まずしっかり書くのが先決ですね。

e: ”ズバリ”の気持ちですか?



 「あんただって、それはわかってるくせに」

ふたりは、ようやく空き地にたどりつこうとしていた。

 「そうかもね」ケイディは認めた。

こんなことを考えるのも変な話だけれど、なんだか……こんな話をするのは気まずい。

ケイディには、気まずく思った自分がさらに気まずく感じられた。

 ナナは下唇を噛んだ。

 「でも、納得なんてできない!」ケイディは、怒りが胸の奥から湧きあがってくるのをおぼえた。

 「ガンになったって、完全に治っちゃう人だっているのに。あんたがそうなったっていいじゃないか」

 「まあね、治る人の中にあたしは入ってなかった、それだけのことよ。それに、死ぬ子どもだっているのは、ケイディ、あんただって知ってるじゃない」

 「そりゃ、知ってるけど。でも、それは---」

 「あんたも、うちの父さんや母さんと同じなんだ」その言葉をさえぎるように、ケイディをにらみつける。

「みんないい気分にさせとくために、あたしは何もかもうまくいっているふりをしなくちゃなんないってわけ。みんな、本当はよ-くわかっているくせに---」

 「だって、みんな希望を持っていたいもの」ケイディは口をはさんだ。

 ナナはどうしてもこんな話を続けたいのだろうか?


 ケイディは深く息を吸いこみ、もう一度くりかえしてみた。「たぶん、あんたの母さんは希望を持っていたくて---」



問 「ケイディは深く息を吸いこみ、もう一度くりかえしてみた」とありますが、この時の「ケイディ」の気持ちを答えなさい。



e: 直後の「たぶん、あんたの母さんは希望を持っていたくて---」がポイントでしょう!

F: 「だって、みんな希望を持っていたいもの」

e: 「---」の内容を答えればいいですか?

F: ナナは母親のことばを素直に受け取ってはいません。

e: 母親の”励まし”の言葉ですね。

F: それどころか、

e: ”怒り心頭”!?

F: そこで、ケイディはナナに望みを捨てないでがんばってほしいという

e: ここでは母親の”思い”を解ってほしくて……

F: ほんとうの気持ちをなんとか理解して、って感じでしょうか。

e: ”親の心、子知らず”!?でしょうか?

F: これは世界共通?

e: 実際に”親”になってみなければ解らない?

F: ところが、親になると、今度は”子”の気持ちがわからなくなっちゃう?

e: 自分が子供時代の頃を思い出せばいいんじゃないのかな?

F: 悲しいかな、すっかり忘却の彼方に……



 「そりゃ、希望は持っていたいでしょうよ。でも、だからってあんな態度とられちゃ、あたしは何も母さんと話せやしない。ほら、いわゆる現実的な話はね。あたしがおびえてる未来についてとか。現実になっちゃうかもしれない未来についてとか」


 「ああ、着いた。やったね!」ナナが声をあげる。ふたりはぐるりと周囲を見まわした。

 丘陵に咲いていた野性の春の花はほとんどみな、熱波の最初の一撃にしおれ、枯れてしまったようだ。

 とはいえ、《売り地》の立て札はまだそのまま残っていた。


 ケイディとナナは道路に背を向け、枯れた草の向こうを見やった。






ケイディの幼い頃からの親友ナナはガンに侵されていた。確実に迫ってくる死を見つめながら、2人は共に過ごす。家で療養中のナナを残して1人中等部に進み、新しい友人ができたケネディは、罪悪感を抱く。2人はぶつかり合いと和解の後、ハロウィンの日のささやかな、そして最後の冒険をする。思春期の少女の気持ちや友情・人間関係を描いた作品。同様に友人の死を扱いつつも少年達を中心に描いた『僕らの事情』と読み比べても興味深い。【中学生から】(殿岡)



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サリー・ワーナー 「永遠の友だち」



作品紹介【BOOKデータベースより】

カリフォルニアの景色美しい街に住むケイディとナナは親友同士。
もうすぐ中等部へ進む夏、本当ならとびきり美しいはずなのに、二人にとっては辛く哀しい-ナナが不治の病に冒されているからだ。ケイディは毎日ナナのそばで過ごす。何も変わらないかのように、精一杯、明るく振る舞う。大切な人を失う日はもうすぐそこ。だけど決して口には出さない。大好きな丘に登り、秘密の景色を楽しんで、この美しい場所が変わらなければ二人もきっと大丈夫!と信じる。けれどナナの衰弱は進み、二人の関係に、そして秘密の丘に、悲劇が訪れて…。
全米で子供たちの共感を呼んだ、二人の少女の絆の物語。



 ケイディとナナは幼なじみの親友です。ナナは不治の病で治療を受けていますが、徐々に衰弱が進んでいきます。

 ある日、ケイディとナナは、思い出の空き地を訪ねます。

 ケイディは幼い頃から、何事にも恐れる様子を見せないナナを見ながら、ナナの後を追いかけるにして過ごしてきました。

 ところが、そんなナナが不治の病におかされてしまったために、衰弱が進み、気持ちにもゆとりがなくなっていきます。



 「あたし、きょうは調子がいいの、ほんと」翌朝、ナナ・ウェーバーは母親にうけあった。

 「ゆっくり行きますから、ウェーバーのおばさん」ケイディは約束した。

 「ナナのことはわたしが気をつけますから、心配しないで」

 いつだって、よく気がつくのはケイディのほうで---それひきかえ、親友のナナはこれまでずっと怖いもの知らずで鳴らしてきた。


 「わたしたち、無理せずゆっくり行きますから」ケイディはうけあった。


 「はりきりすぎちゃだめよ」後ろから、ウェーバー夫人が声をかけた。「向こうに無事に着いても、帰りもここまで歩いてこなきゃならないんですからね」

 「それくらいのことも、あたしにはわからないと思ってるんだ、母さんは」ナナの機嫌は、まちがいなく悪化の一途をたどっていた。

 「あんまり暑くならないうちに出なくっちゃ」喧嘩が始まる前になんとかふたりを引き離そうと、ケイディは急かした。

 ナナと母親の親子喧嘩は、すでにこの界隈では有名になりつつあるのだから。


 ウェーバー家をさっさと後にして、ケイディとナナはパイン・クレスト通りを上りはじめた。けれど、上り坂がきつすぎて、ふたりの足どりはすぐにゆっくりになった---あまりゆっくりで、正直なところ、ケイディはひそかにショックを受けたほどだ。ナナの身体はもう、本当にここまで衰えてしまったのだろうか?こんな坂、これまでのあたしたちにとっては何でもなかったのに!

 「遅くてごめん」まるでケイディの心を読んだかのように、ナナが口を開いた。


 「でも、まだ脚が痛むんじゃないの?」ケイディは尋ねた。ナナはこれまで、ケイディにさえも、ほとんど愚痴をこぼしたことはなかった。

 ナナはいつだってこんなふうだった、とケイディはふりかえった。



問 「ナナはいつだってこんなふうだった」とありますが、「ナナ」はいつもどんなふうだったのですか。



e: サリー・ワーナー

F: デイヴィッド・ヒル

e: 「永遠の友だち」は女の子同士

F: 「僕らの事情」は男の子同士

e: & バーバラ・パークの「いつもそばにいるから」は祖父と孫?

F: 傍線部の前後からわかりますね。

e: 「こんなふう」の内容を答えればいいだけでしょ?

F: 具体的に

e: 幼稚園のころのこととか

F: 年かさの乱暴な子供たちとのいざこざとか

e: あと、滑り台のこととか?

F: 滑り台と言えば……

e: ブランディ?

F: 開成が記述になった年の出題でしたね。

e: 2001年でしょ?

《ジェイムズ・ヘリオット作/大熊 栄訳『ドクター・ヘリオットの犬物語』》

F: もうそろそろ開成も記述なんて言ってたら……21世紀になるわけですからね。

e: ”ズバリ”当たりましたね。

F: 周りでは記述にはならないなんて言ってましたけどね……

e: ”ゼッタイ”にならないなんて断言してた連中も多かった!?

F: 次の年にはまた元に戻る!?という人もね……



 幼稚園ころでさえ、ナナは観覧車に大声をあげて喜んだし、年かさの乱暴な子供たちを怖れる様子もなく、たとえぶちのめされてれも何もなかったかのように平然としていたものだ。

 それにひきかえ、ケイディはすべり台さえも怖くて下りられない子どもだった。


 「うん、ちょっと痛いかもね」ナナは認めた。 「でも、そんなにひどいわけじゃないし、前よりずっといいよ」言葉を切り、つけくわえる。

 「だから、やっぱり放射線もやってよかったんだと思う」

 「放射線って痛くないの---その、脚にかけるときに?」ケイディはさらに突っこんだ。この治療法は、どうにも想像がつかないのだ。

 「放射線なんて、写真撮られているのと同じ、全然痛くないんだから」ナナは続けた。

 「ただ、後からちょっと気分悪くなるけど。ちょうどいまみたいにね」

 いかにも何気ないそぶりで足を止め、呼吸を整えようとする。

 ナナは景色を眺めるふりをしていたけれど、ここからはほとんど何も見えない---まだまだ、坂の途中だから。目的地までには、まだかなり上らなくてはならない。

 「もう帰りたいんじゃない?」ケイディは尋ねた。



問 「『もう帰りたいんじゃない?』ケイディは尋ねた」とありますが、この時の「ケイディ」の気持ちを答えなさい。



e: この時の「ケイディ」のズバリの気持ち、わかります?

F: 本文の前半の場面をしっかり押さえておけばわかるでしょう。

e: 「ナナ」が衰弱していることに、「ケイディ」はショックを受けている場面がありますね。

F: 「あまりゆっくりで、正直なところ、ケイディはひそかにショックを受けたほどだ」とありますね。

e: 「ナナの身体はもう、本当にここまで衰えてしまったのだろうか?」

F: ここでも「ナナ」は坂を上りながら「いかにも何気ないそぶりで足を止め、呼吸を整えようとする」が

e: ケイディはそのことに気づいていますね。

F: ケイディは苦しんでいる親友の姿を見て何を感じたのでしょうか?



 「あの空き地へは、また別の日に行ったっていいんだもの」丘の上の、あの空き地のことを思う。パイン・クレスト通りを上りきったところにある、このあたりで唯一まだ家の建っていない空き地は、ふたりのお気に入りの場所のひとつだったけれど、ナナの誕生日以来、まだ一度も行ってみたことはない。

 「ううん、あたしは行きたい」ナナは頑固に言い張った。

 「まだ買い手がついてないかどうか見たいんだもの」





サリー・ワーナー 「永遠の友だち」(Sort of Forever)2006/8角川書店

ワーナー、サリー(Warner,Sally)NY生まれ。LAのオーティス大学でファインアートを学んだ後、パサデナ市立大学で芸術科の教師になる。約十年間の教師生活を経て、作家に。おもに子供向け、ティーン向けに次々と本を発表し、せつない女の子の気持ちを描いた作品で、ティーンたちの心をつかんでいる。同じく作家である夫と共に南カリフォルニア在住。『わたしが私になる方法』

山田蘭(ヤマダ ラン)翻訳家




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サリー・ワーナー 「永遠の友だち」



【日販MARCより】

ケイディの親友ナナは、不治の病におかされている。大切な人を失う日は、もうすぐそこに…。初めて死と向かい合った二人の少女が、最期の夏にする小さな冒険。全米で多くの共感と涙を呼んだ、優しさと絆の物語。



辛さを乗り越えた末に得られる、とてもたいせつなもの。




 あの空き地を見てからというもの、ナナは壮大な計画をずっと心に抱いているのだ。いつの日かあの土地を買い、ずっと空き地のまま、自然のままにしておきたいという計画を。


 「あの植物。花が咲いているのが見える?あの花、開いてから色が変わるんだって。昨日と今日と明日で色がちがうってわけ。最初は紫で、次に薄紫になって、明日は白。母さんが教えてくれたんだ---うちの変わる、花に詳しいから。それでも、あたしはうまくいくかどうか自信ないんだけど」

 「えっ?」ケイディは何のことかわからなかった。
 「何がうまくいくって?」

 「放射線治療。あたし、やっぱりこのまま死ぬのかもしれないってこと」

 死ぬ!ケイディの胸の奥で、心臓がぴくりと跳ねたような気がした。



 問 「死ぬ!ケイディの胸の奥で、心臓がぴくりと跳ねたような気がした」時の「ケイディ」の気持ちを答えなさい。



 「まあね、結局は誰だって死んじゃうんだから」


 「それに、誰が先に死ぬかなんてわかんないよ。わたしのほうが先に、よくみんなの言っているバスにひかれて死んじゃうかもしれないんだし」


 「でも、まずそんなことは起きないよ」ナナの口調には抑揚がなく、その口もとにも笑いの影はなかった。



問 「ナナの口調には抑揚がなく、その口もとにも笑いの影はなかった」とありますが、この時の「ナナ」の気持ちを答えなさい。



e:

F:

e:

F:

e:

F:



 「あんただって、それはわかってるくせに」
ふたりは、ようやく空き地にたどりつこうとしていた。

 「そうかもね」ケイディは認めた。
こんなことを考えるのも変な話だけれど、なんだか……こんな話をするのは気まずい。ケイディには、気まずく思った自分がさらに気まずく感じられた。

 ナナは下唇を噛んだ。

 「でも、納得なんてできない!」ケイディは、怒りが胸の奥から湧きあがってくるのをおぼえた。

 「ガンになったって、完全に治っちゃう人だっているのに。あんたがそうなったっていいじゃないか」

 「まあね、治る人の中にあたしは入ってなかった、それだけのことよ。それに、死ぬ子どもだっているのは、ケイディ、あんただって知ってるじゃない」

 「そりゃ、知ってるけど。でも、それは---」


 ナナはどうしてもこんな話を続けたいのだろうか?


 ケイディは深く息を吸いこみ、もう一度くりかえしてみた。「たぶん、あんたの母さんは希望を持っていたくて---」



問 「ケイディは深く息を吸いこみ、もう一度くりかえしてみた」とありますが、この時の「ケイディ」の気持ちを答えなさい。



e:

F:

e:

F:

e:

F:



 「そりゃ、希望は持っていたいでしょうよ。でも、だからってあんな態度とられちゃ、あたしは何も母さんと話せやしない。ほら、いわゆる現実的な話はね。あたしがおびえてる未来についてとか。現実になっちゃうかもしれない未来についてとか」


 「ああ、着いた。やったね!」ナナが声をあげる。ふたりはぐるりと周囲を見まわした。

 丘陵に咲いていた野性の春の花はほとんどみな、熱波の最初の一撃にしおれ、枯れてしまったようだ。

 とはいえ、《売り地》の立て札はまだそのまま残っていた。


 ケイディとナナは道路に背を向け、枯れた草の向こうを見やった。







ケイディの幼い頃からの親友ナナはガンに侵されていた。確実に迫ってくる死を見つめながら、2人は共に過ごす。家で療養中のナナを残して1人中等部に進み、新しい友人ができたケイディは、罪悪感を抱く。2人はぶつかり合いと和解の後、ハロウィンの日のささやかな、そして最後の冒険をする。思春期の少女の気持ちや友情・人間関係を描いた作品。同様に友人の死を扱いつつも少年達を中心に描いた『僕らの事情』と読み比べても興味深い。【中学生から】(殿岡)

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作品紹介【BOOKデータベースより】

カリフォルニアの景色美しい街に住むケイディとナナは親友同士。もうすぐ中等部へ進む夏、本当ならとびきり美しいはずなのに、二人にとっては辛く哀しい-ナナが不治の病に冒されているからだ。ケイディは毎日ナナのそばで過ごす。何も変わらないかのように、精一杯、明るく振る舞う。大切な人を失う日はもうすぐそこ。だけど決して口には出さない。大好きな丘に登り、秘密の景色を楽しんで、この美しい場所が変わらなければ二人もきっと大丈夫!と信じる。けれどナナの衰弱は進み、二人の関係に、そして秘密の丘に、悲劇が訪れて…。全米で子供たちの共感を呼んだ、二人の少女の絆の物語。



 ケイディとナナは幼なじみの親友です。ナナは不治の病で治療を受けていますが、徐々に衰弱が進んでいきます。ある日、ケイディとナナは、思い出の空き地を訪ねます。ケイディは幼い頃から、何事にも恐れる様子を見せないナナを見ながら、ナナの後を追いかけるにして過ごしてきました。ところが、そんなナナが不治の病におかされてしまったために、衰弱が進み、気持ちにもゆとりがなくなっていきます。



 「あたし、きょうは調子がいいの、ほんと」翌朝、ナナ・ウェーバーは母親にうけあった。

 「ゆっくり行きますから、ウェーバーのおばさん」ケイディは約束した。
 「ナナのことはわたしが気をつけますから、心配しないで」

 いつだって、よく気がつくのはケイディのほうで---それひきかえ、親友のナナはこれまでずっと怖いもの知らずで鳴らしてきた。


 「わたしたち、無理せずゆっくり行きますから」ケネディはうけあった。


 「はりきりすぎちゃだめよ」後ろから、ウェーバー夫人が声をかけた。「向こうに無事に着いても、帰りもここまで歩いてこなきゃならないんですからね」

 「それくらいのことも、あたしにはわからないと思ってるんだ、母さんは」ナナの機嫌は、まちがいなく悪化の一途をたどっていた。

 「あんまり暑くならないうちに出なくっちゃ」喧嘩が始まる前になんとかふたりを引き離そうと、ケネディは急かした。

 ナナと母親の親子喧嘩は、すでにこの界隈では有名になりつつあるのだから。


 ウェーバー家をさっさと後にして、ケイディとナナはパイン・クレスト通りを上りはじめた。けれど、上り坂がきつすぎて、ふたりの足どりはすぐにゆっくりになった---あまりゆっくりで、正直なところ、ケイディはひそかにショックを受けたほどだ。ナナの身体はもう、本当にここまで衰えてしまったのだろうか?こんな坂、これまでのあたしたちにとっては何でもなかったのに!

 「遅くてごめん」まるでケイディの心を読んだかのように、ナナが口を開いた。


 「でも、まだ脚が痛むんじゃないの?」ケイディは尋ねた。ナナはこれまで、ケイディにさえも、ほとんど愚痴をこぼしたことはなかった。
 ナナはいつだってこんなふうだった、とケイディはふりかえった。



問 「ナナはいつだってこんなふうだった」とありますが、「ナナ」はいつもどんなふうだったのですか。



e:

F:

e:

F:

e:

F:



 幼稚園ころでさえ、ナナは観覧車に大声をあげて喜んだし、年かさの乱暴な子供たちを怖れる様子もなく、たとえぶちのめされてれも何もなかったかのように平然としていたものだ。

 それにひきかえ、ケイディはすべり台さえも怖くて下りられない子どもだった。


 「うん、ちょっと痛いかもね」ナナは認めた。 「でも、そんなにひどいわけじゃないし、前よりずっといいよ」言葉を切り、つけくわえる。

 「だから、やっぱり放射線もやってよかったんだと思う」

 「放射線って痛くないの---その、脚にかけるときに?」ケイディはさらに突っこんだ。この治療法は、どうにも想像がつかないのだ。

 「放射線なんて、写真撮られているのと同じ、全然痛くないんだから」ナナは続けた。
 「ただ、後からちょっと気分悪くなるけど。ちょうどいまみたいにね」
 いかにも何気ないそぶりで足を止め、呼吸を整えようとする。
 ナナは景色を眺めるふりをしていたけれど、ここからはほとんど何も見えない---まだまだ、坂の途中だから。目的地までには、まだかなり上らなくてはならない。

 「もう帰りたいんじゃない?」ケイディは尋ねた。



問 「『もう帰りたいんじゃない?』ケイディは尋ねた」とありますが、この時の「ケイディ」の気持ちを答えなさい。



e:

F:

e:

F:

e:

F:



 「あの空き地へは、また別の日に行ったっていいんだもの」丘の上の、あの空き地のことを思う。パイン・クレスト通りを上りきったところにある、このあたりで唯一まだ家の建っていない空き地は、ふたりのお気に入りの場所のひとつだったけれど、ナナの誕生日以来、まだ一度も行ってみたことはない。

 「ううん、あたしは行きたい」ナナは頑固に言い張った。
 「まだ買い手がついてないかどうか見たいんだもの」





サリー・ワーナー 「永遠の友だち」(Sort of Forever)2006/8角川書店ワーナー、サリー(Warner,Sally)NY生まれ。LAのオーティス大学でファインアートを学んだ後、パサデナ市立大学で芸術科の教師になる。約十年間の教師生活を経て、作家に。おもに子供向け、ティーン向けに次々と本を発表し、せつない女の子の気持ちを描いた作品で、ティーンたちの心をつかんでいる。同じく作家である夫と共に南カリフォルニア在住。『わたしが私になる方法』

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伊集院静「どんまい」



 「ドンマイ、ジュンヤ」




 「何で、ありがとうなんだ?」

 「女の私と、一生懸命にキャッチボールをしてくれて」

 「何を言ってんだ。じゃ、またな」

 純也は走り出して、急に立ち止まり、カオルを振りむいた。

 「もしかまわなかったら、あの日被っていた帽子を少しでいいから貸してくれないか」

 「帽子?あっ、あれはだめだ。亡くなったパパが買ってくれたものだから。他の帽子ならいい。でも帽子なんかどうするんだ?」

 純也は淑子が、カオルの帽子の絵を描いている話をした。カオルは険しい表情をして純也の話を聞いていたが、きっぱりと言った。



問 「カオルは険しい表情をして純也の話を聞いていたが、きっぱりと言った」とありますが、この時の「カオル」の気持ちを答えなさい。



e: カオルは何とか純也の力になってあげたいと悩んでいますね。

F: 前にも書いたように、カオルは純也に感謝の気持ちを持っています。

e: それに淑子の病状があまりかんばしくないことも知ってます。

F: ですから「険しい表情をして純也の話を聞いていた」のですね。

e: けれども、淑子の憧れている帽子

F: 亡くなったパパが買ってくれた

e: カオルにとってとても大切なもの

F: 亡き父の”形見”みたいなものですからね。

e: カオルはどうしても淑子に貸すことができない。

F: 貸すことをためらってます。

e: そりゃ、そんなに親しくはないですから躊躇いますよね。普通は。



 「でも、あの帽子は絶対にだめだ」

 「そうか、大切なものだものな。じゃあな」

 純也は言って、家にむかって走り出した。



 家に帰ると、玄関の鍵がかかったままだった。母が仕事先から戻ってないのだ、と思った。

 「純ちゃん、病院からさっき電話があってヨッちゃんの容体が急に悪くなったから、すぐ病院に来てくれって」


 「俺、すぐに病院に行く。おばさん、母ちゃんが帰ってきたら淑子のこと伝えて」


 淑子は集中治療室に入っていた。

 純也は廊下の椅子に座って、母が来るのを待った。そうして淑子を助けて欲しい、と祈った。

 ---母ちゃんはどこへ行ってしまったんだろう。

 母のことを考えると、純也は不安になった。もしかして、母は淑子と純也を見捨てて、どこかへ行ってしまったのではないか、思った。

 ---いや違う。母ちゃんはそんなことはしない。今日に限って遠出の仕事か何かあって、今頃、ここにむかってるはずだ。

 純也は胸に湧き起こる不安を懸命に打ち消した。

 廊下の壁の時計はすでに夜中の二時を回っていた。


 純也が目を覚ますと、母の手が肩を抱いていた。

 「母ちゃん、淑子は?」

 純也が訊くと、母は笑みを浮かべて、

 「大丈夫だったわ。昨晩はごめんね」

 と言って肩を叩いた。純也は首を横に振り、ガラス越しに集中治療室のベッドに寝ている淑子を見た。



問 「純也は首を横に振」った時の、母に対する「純也」の気持ちを答えなさい。



e: 「もしかして、母は淑子と純也を見捨てて、どこかへ行ってしまったのではないか」と母に対して疑念を持っていますね。

F: 母はどこに行ってしまったかわからい状況ですから、そう思うのはもっともなことでしょう。

e: ところが、純也の心配をよそに

F: 深夜になってようやく病院に戻ってはきますが……

e: 深夜に男と一緒!?

F: しかも、なにか争っているようすです。

e: 尋常ではないと子供心にも直感しますよねぇ。

F: 何か自分の知らない事情があるのでは、と。

e: 不安な気持ちは払拭できないでいますね。
F: といっても、母は自分たちを見捨てないで、とにかく戻っては来てくれたのだから……

e: 母を責められない、という気持ちですか?
F: 「大丈夫だったわ。昨晩はごめんね」という母のことばを受け入れたわけですね。

e: 母の謝罪を認めたというかたちですか?

F:



 純也は洗面所に行き、顔を洗った。

 廊下に出ると、昨夜の看護婦が、紙袋を手にやってきた。

 「佐伯君、これを淑子ちゃんの渡して下さいって預かったわ」

 渡された紙袋を覗くと、中に帽子が入っていた。

 ---カオルだ。


 純也は廊下を走った。


 オーイ、オーイ、カオル、と純也は叫びながら走った。スピードを上げたタクシーが遠ざかっていく。


 大通りへ出る信号でタクシーは停車していた。純也はあらん限りの声で、カオルの名前を呼んだ。信号が青にかわり、車は動き出した。するとタクシーは側道に寄った。ドアが開いて、ワンピース姿のカオルが出てきた。

 「カオル、カオル、ありがとう」

 純也が大声で言うと、カオルは手を振ってから両手を口に当て、

 「ドンマイ、ジュンヤ」

 と叫んだ。



問 「ドンマイ、ジュンヤ」と叫んでいますが、カオルはジュンヤに何を伝えたかったのですか?



 純也は首まで湯につかって目を閉じていた。

 「トクジイ、俺、カーブが投げられるようになったぞ」

 「そうか。カーブをな……」

 「トクジイ、”どんまい”って何のことじゃ」
 「ドント、マインド。気にしなさんなってことじゃ」

 「たったそれだけのことなのか?」

 「それだけのことじゃ」

 「ふぅ-ん……そうか。トクジイ、女児の手というのは温かいの。女児もええもんじゃの」
 「女は厄介じゃ」

 元湯の湯煙が二人をつつんでいた。



問 「トクジイ、女児の手というのは温かいの。女児もええもんじゃの」とありますが、この時の「純也」の気持ちを答えなさい。


問 「女は厄介じゃ」と言った時の徳造爺さんの気持ちを答えなさい。




【目次】

ぼくのボールが君に届けば
えくぼ
どんまい
風鈴
やわらかなボール
雨が好き
ミ・ソ・ラ
キャッチボールをしようか
麦を噛む

ドストエフスキーの「貧しき人々」の主人公が彼女の馬車を追う場面に匹敵する。

伊集院さんがこよなく愛する野球をテーマに描いた短編集です。母を亡くした少年が、野球に打ち込む中で父の再婚相手に心を開いていく姿を描いた表題作「ぼくのボールが君に届けば」、病弱な双子の妹を持つ少年と野球の得意な左利きの少女との出会いを描いた「どんまい」など、野球をめぐる切なく、そして心あたたまる物語9編。人を愛すること。支え合うこと。希望を持つこと。野球を通して、大切にしたい想いが鮮やかに描き出されます。

「青空にボールが舞い上がった時、皆がひとつのものを見上げてるってことが俺は好きなんだ」秋田、長岡、大阪、神戸、松山、天草…、野球というゲームにこめられた思いを、やわらかなボールで相手の胸元に届けるように丁寧に描き、出逢いと別れ、生と死の在りようを見つめ直した新境地とも言うべき作品集合。

なんとも情報の少ない小説で、だからこそ読み手の想像力が膨らみます。そして、えっ?これで終わらすの?と思うほど思い切り結末を告げずに終わるんです。それがまたいいんですよ。あの子はきっと無事だろうと自分でハッピーエンドにしたりしてね。

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伊集院静 「どんまい」



出版社/著者からの【内容紹介】

少年は青空に抱いてほしかった。彼女はその人を見つめて生きてきた。大切な人に届けたい9つの短編。
あの時、どうしてあんなにときめいたのだろう。見上げたボールの先は、どうして青空だったのだろう。いとしい人とひとつのものを見つめた、あの思いがよみがえる、9つの物語。




 胸元へ すっと投げた







 「綺麗な帽子……」

 淑子は声を上げた。

 「えっ、何を言うたんじゃ」

 「あの帽子、綺麗……」

 淑子が指さした池のむこう側に、車椅子に乗った白髪の老人と並んで、少女と母親らしき女性が歩いていた。その少女が白いワンピースと同色の帽子を被っていた。秋の日ざしに帽子の白とピンク色のリボンがかがやいていた。淑子は少女の帽子を綺麗と呟いていた。

 ---なんや金持ちの家の子やな……。

 淑子は少女をじっと見つめていた。



問 「淑子は少女をじっと見つめていた」とありますが、この時の「淑子」の気持ちを答えなさい。



 「淑子、そろそろ戻ろうか」

 純也が言うと、淑子が純也の肩に手をかけて、少しこのままにして欲しい、という仕草をした。

 ---淑子も女の子やから、ああいう恰好がしたいのじゃろうか……。

 純也が胸の中で、そう思いながら、近寄ってくる少女を見た。

 「あ、あいつじゃ」

 純也は思わず声を上げた。

 少女も純也の顔を見て、一瞬、顔色を変えた。

 スカートを穿いたまましゃがみ込んだ少女とは、まるで別人のように映った。少女は老人と母親が話をはじめた時、純也にむかってウインクした。そうして純也の隣にいる淑子をちらりと見て、老人の方に笑いかけた。

 ---どうなっとるんじゃ……。

 純也が呆気にとられていると、

 「淑子もあんな帽子を被ってみたい」

 淑子がぽつりと言った。

 その日の午後から、淑子は帽子を被って丘の上に立っている自分の姿を絵に描きはじめた。


問 「淑子は帽子を被って丘の上に立っている自分の姿を絵に描きはじめた」とありますが、絵には淑子のどのような願いがあらわれていますか。



e: 淑子の絵には自分の姿が描かれていますね。

F: それも「丘の上に立っている」自分の姿です。

e: 「帽子を被って」いる!?

F: 入院生活でなかなか自由に外にも行けない

e: 不自由な生活を強いられています。

F: 帽子なんかも被りたくても被れない……

e: 退院できれば、好きな恰好をして

F: 好きな場所に行ってみたいという

e: 願望がキャンバスに描かれた絵に込められているんでしょうね…

F: 「良くなるかな……」ということばから

e: いつ病気が治って退院できるのかわからないような状況ですからね…

F: せめて”絵の中”くらいは……

e: ”元気”になった自分の姿を描きたい…

F: それも”女の子”らしい恰好で。



 翌夕、純也が廃工場の壁にむかってボールを投げていると、おしい、と声がして草叢のむこうから、人影が手を振って近づいてきた。

 見ると、あの少女だった。スカートではなくスラックスを穿いていた。手にはグローブを持っていた。

 「これならいいだろう。さあ、キャッチボールをしようぜ」

 純也は黙ってうなずき、ボールを投げた。

 「おっ、曲がるようになったじゃないか」

 少女は嬉しそうに言った。


 二人は日が沈むまでキャッチボールを続けた。

 「俺はもう家に戻んなきゃいけない。病院に行くんだ」

 「……そうか。あの子はジュンヤの妹なのか?」

 純也が一瞬、顔を曇らせると、

 「あそこはいい病院だから大丈夫だ。私のお祖父ちゃんも退院できるかもしれないと言っていた」



問 「少女」はなぜ「あそこはいい病院だから大丈夫だ」と言ったのですか。



e: なんか、この女の子の言葉使いは例の

F: ”少女剣士”高岡を思い出しますか?

e: 男の子顔負けのせりふを吐いていましたからね…

F: ここだけの場面を読んでいたら

e: 正しく”男の子”!?

F: ”カオル”ですから

e: ”男女兼用”の名前?そう言えば、伊集院静という名前も

F: 女の子みたいで嫌だなんて!?

e: おまけに、その名前だとあわれな晩年を迎えると

F: 占いで言われ、開き直って……

e: 純也は顔を曇らせます。

F: 淑子の病状を訊かれた時ですね。

e: 「淑子の病気が良くなっているかどうかはわからない」現状ですから当然でしょ。

F: そんな純也を見て、カオルは淑子の容体があまりかんばしくないと察し

e: 純也を励まそうと淑子が入院している病院を

F: 「いい病院」だと言っているのですね。

e: 要するに「大丈夫だ」は

F: あの病院で治療を受けていれば

e: いつかは淑子の病気は治るという意味で言っている?



 「あの人はカオルの祖父ちゃんなのか」

 「そうだ。ママのお父さんだ。東京からママと二人で見舞いにきたんだ」

 クスッ、と純也が笑うと、カオルが純也を見返して、何が可笑しいんだ、訊いた。

 「ママって言ったのがだ」

 「可笑しいか」

 「おまえが、いやカオルが言うと可笑しい。それにこの間の病院での恰好も可笑しかった」

 「しょうがないじゃないか。ああしないとお祖父ちゃんは喜ばない」

 カオルが頬をふくらませて言った。

 「……そうか、悪かった」

 純也が謝ると、カオルが右手を差し出した。純也も手を差し出し、握手した。カオルの手は温かかった。カオルが言った。

 「ありがとう」



問 「ありがとう」とありますが、この時の「カオル」の気持ちを答えなさい。



e: これは「女であるにもかかわらず、マジにキャッチボールをしてくれて」

F: ”ありがとう”ということでしょう。

e: まあ、普通なら女の子相手に野球はやってくれませんよね…

F: 「年長者たちは少女に手玉に取られたのが口惜しかったのか、三回を終えると、今日はやめた、と言い出して、グラウンドを引き揚げていった」とありますから

e: いくら野球ができても”女”とはしたくないというのが本音かな?

F: で、相手をしてくれたジュンヤに感謝の一言が”ありがとう”ですね。

e: 純也がカオルが”ママ”と言ったのを聞いてクスッと笑ったり

F: 病院での恰好も可笑しかったと言ったりしたことに対して

e: 「……そうか、悪かった」と謝ってますね。

F: 女の子らしい恰好をしたのはお祖父ちゃんを喜ばすためだったですから。

e: カオルは右手を差し出し、ジュンヤに握手を求めますね。これって、どういうことですか?

F: それはきっちり書かなくては。ここがポイントでしょう。







ベストセラー「受け月」から12年。著者の原点ともいえる「野球小説」。心とはもしかしたら、ボールのようなかたちをしているのかもしれない。キャッチボールのように、心と心が通いあう瞬間、人はいままでのわだかまりを捨て、心の底から笑うことができる。
最悪の息子を自らの過失で失った男。不倫の恋に苦悩する女。ずっと昔の恋の思い出を胸に秘めたまま、その存在を見守り続ける老女。友情のために、兄姉のために格闘しながら成長していく少年や少女はさまざまな登場人物の心のふるさとを「野球」というスポーツを背景に描く、9つの物語。いとおしさの、勇気、忘れていた思い。読む人の心に「生きる勇気」をあたえる希望の短編集です。

「青空にボールが舞い上がった時、皆がひとつのものを見上げてるってことが俺は好きなんだ」秋田、長岡、大阪、神戸、松山、天草…、野球というゲームにこめられた思いを、やわらかなボールで相手の胸元に届けるように丁寧に描き、出逢いと別れ、生と死の在りようを見つめ直した新境地とも言うべき作品集合。


「野球を愛する男」を愛する貴女に。

収録されている短編すべてが野球と死をモチーフとした作品。著者の野球を愛する気持ちが伝わってきます。今まで野球について何の思いもなかったのですが、なんとなく「野球を愛する人」のことを理解できたような気になりました。「青空にボールが舞い上がった時、皆がひとつのものを見上げてるってことが俺は好きなんだ」純粋に野球を愛する心が伝わってきます。また角田光代さんのあとがきも秀逸。キャッチボールでいうところの「ボールを投げられた側」を描き、そのボールを自分で取りにいく=その凛とした生き方、解説している。これでまた全ての短編が再び心の中で輝いた。

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伊集院静 『ぼくのボールが君に届けば』



内容(「BOOK」データベースより)

あの時、どうしてあんなにときめいたのだろう。見上げたボールの先は、どうして青空だったのだろう。いとしい人とひとつのものを見つめた、あの思いがよみがえる、9つの物語。



「どんまい」



《あらすじ》

 野球が好きな小学二年生の佐伯純也は、母と入院中の双子の妹の淑子の三人で暮らしています。ある日、純也が年長組の野球の練習を見に行くと、三日前に廃工場跡の草叢で出逢った少女が、「一回打たせてよ」と交渉していました。皆、少女を馬鹿にしていますが、予想に反し、年長組は少女に手玉に取られてしまいます。純也は妹の淑子の見舞いに行くと、女の子らしい恰好をした少女に出逢います。その時、少女が被っていた帽子に淑子は憧れます。カオルと名乗る少女にキャッチボールをした後、「帽子を少しでいいから貸してくれないか」と頼みますが、「亡くなったパパが買ってくれたものだから」だめだと断られてしまいます。淑子の容体が悪くなり、純也は母と連絡を取ろうとしますが、母はどこに行ったのかわからず、自分は母に見捨てられたのではないかという不安に襲われます。結局、深夜になってようやく母は病院にやってきました。翌朝、カオルが大切にしている帽子を淑子に置いていってくれたことがわかります。お礼を言うために追いかけてきた純也に、カオルは一言「ド
ンマイ、ジュンヤ」と叫んだだけでした。



 小学二年の佐伯純也は、母と双子の妹の淑子の三人で暮らしている。淑子は難しい病気にかかり、半年前から入院している。ある日、純也が廃工場跡の草叢でボールを投げていると、見知らぬ少女に声をかけられ、カーブの投げ方を教えてもらった。


 週末の午後、純也は附属小学校のグラウンドにグローブを持って年長組の練習を見にいった。

 土曜日は年長組がふた手に分かれて試合をする。人数が揃っていないと純也は試合に入れて貰えることがある。

 母に言われて、徳造爺さんが帰ってきているかを見てきたので、いつもより時間が遅くなった。

 正門の脇を走り抜け、グラウンドに入ると、マウンドの所に皆が集まっていた。


 「変な女児が入ってきて、野球をやらせろと言うとる。上級生がだめじゃ言うても、やらせろ言うてきかん。馬鹿じゃなかろうかの」

 ユキオが首をすくめて言った。


 三日間に廃工場跡の草叢で逢った少女が年長組の中で、腰に手を当てて大声で何かを言っている。

 打てんせんて、やめとけ、だから打たせてみろ。ボールが当たって泣いてもしらんぞ。なくもんか、そのかわり打ったら仲間にいれろよ。生意気な口をきく女児じゃのう……。

 年長者たちは少女に根負けしたのか、投手の一人がマウンドに残り、少女がバットを手にしてバッターボックスに入った。皆ニヤニヤと笑って少女を見た。



 問 「皆ニヤニヤと笑って少女を見た」時の「皆」の気持ちを答えなさい。



e: 伊集院静といえば

F: ”夏目雅子”ですか!?

e: 本文でも出てきますね。

F: ?

e: 白いワンピースの少女!?

F: 夏目雅子といえば、白い帽子と白いワンピース姿が目に焼き付いていますね。確かに!

e: 鎌倉に白い帽子と白いワンピースは似合うんじゃないですか……

F: 伊集院静、いろいろエピソードがありますが……

e: それはまたの機会に、ということで。

F: ただひとつだけ

e: こよなく”野球”を愛した男であるということでしょ!

F: 「野球小説」は彼の原点でしょうね。

e: さて、カオルが野球の仲間に「野球をさせろ」と強引に

F: 「やらせろ言うてきかん」

e: 「馬鹿じゃなかろうかの」

F: で、年長組は「打てんせんて、やめとけ」

e: 「ボールが当たって泣いてもしらんぞ」

F: とカオルを馬鹿にしてます。

e: ところが……

F: バッターボックスに立ったカオルに打たれたピッチャーは

e: 「女児だから手加減をした」なんて言い訳をして、いいわけない!

F: 女の子だからまともに野球なんかできるわけはないと

e: 年長組がカオルを馬鹿にしているんでしょ!

F: ソフトの上野のボールはプロの野球選手だってなかなか打てないんじゃないですか?

e: ”男尊女卑”!?

F: まあ”偏見”でしょうね。

e: ”女の子”に男が投げるボールなんか打てるわけない!?

F: 小学校の高学年ですと、女の子の方が腕力があったりして……

e: 「十歳!本当かよ?」



 尻にぶつけてやれ、誰かが大声で言って、皆が笑い出した。


 カーン、と乾いた音がして、少女が打った打球がセンターの後方にむかって上昇した。打たれた投手も、見物していた年長者たちも、純也も、ユキオも、その打球を口を開けたまま見上げていた。

 「あれ、まあ……」

 隣でユキオが素頓狂な声を上げた。



問 「ユキオが素頓狂な声を上げた」とありますが、この時の「ユキオ」の気持ちを答えなさい。

 年長者たちは少女に手玉に取られたのが口惜しかったのか、三回を終えると、今日はやめた、と言い出して、グラウンドを引き揚げていった。

 グラウンドには少女と純也の二人だけが残った。

 「君、この間のカーブを練習していた子だろう」

 「おまえ歳はいくつなんだ?」

 「女の子に歳を聞くもんじゃない。十歳だよ」
 「十歳!本当かよ?」

 純也はびっくりして、少女を足元から頭の先まで見直した。自分とひとつしか違わない。


 「平気だ。私が受けるからカーブの練習をしてみろよ」

 そう言って少女はスカートを内股に入れて、その場にしゃがみ込んだ。こんな恰好を平気でする少女は見たことがなかった。

 「よし、投げろよ」

 少女がグローブを叩いた。純也はボールを持ったまま立っていた。



問 「純也」はなぜ「ボールを持ったまま立っていた」のですか。


 「どうした?早く投げろ」

 「……おまえやっぱりおかしいよ。女児なんじゃから……」

 純也が言うと、少女は急に怒ったように頬をふくらませ、純也にグローブを投げ返しグラウンドを去っていった。


 翌日、母が一日仕事があるので、純也は淑子の病院へ行った。

 淑子は熱が下がって、ベッドに座って絵を描いていた。


 純也は車椅子を押して、中庭の池のほとりに淑子を連れていった。淑子は空を見上げている。純也も空を見上げ、今頃、グラウンドで皆が野球をしているのだろう、と思った。



問 「淑子は空を見上げている」とありますが、この時の「淑子」の気持ちを答えなさい。


 「淑子も早う良くなって、また相子が浜へ海水浴に行こうな」

 「良くなるかな……」

 淑子が弱々しい声で言った。

 「良くなるに決まっとる。今日くらい元気なのが続いたら、すぐに退院できるって」

 そうは言ったものの純也にも淑子の病気が良くなっているのかどうかわからなかった。

 母に具合を訊いても、この頃は、ちゃんと答えてくれなかった。





伊集院静「どんまい」(『ぼくのボールが君に届けば』所収)講談社

【目次】

「ぼくのボールが君に届けば」
「えくぼ」
「どんまい」
「風鈴」
「やわらかなボール」
「雨が好き」
「ミ・ソ・ラ」
「キャッチボールをしようか」
「麦を噛む」

ベストセラー「受け月」から12年。著者の原点ともいえる「野球小説」。心とはもしかしたら、ボールのようなかたちをしているのかもしれない。キャッチボールのように、心と心が通いあう瞬間、人はいままでのわだかまりを捨て、心の底から笑うことができる。最悪の息子を自らの過失で失った男。不倫の恋に苦悩する女。ずっと昔の恋の思い出を胸に秘めたまま、その存在を見守り続ける老女。友情のために、兄姉のために格闘しながら成長していく少年や少女はさまざまな登場人物の心のふるさとを「野球」というスポーツを背景に描く、9つの物語。いとおしさの、勇気、忘れていた思い。読む人の心に「生きる勇気」をあたえる希望の短編集です。

伊集院静(イジュウイン・シズカ)

1950年(昭和25)山口県防府市生まれ。立教大学文学部卒。1981年小説「皐月」でデビュー。1991(平成3)年に「乳房」で吉川英治文学新人賞受賞。1992年に「受け月」で直木賞受賞。1994年に「機関車先生」で柴田練三郎賞を受賞。2002年「ごろごろ」で吉川英治文学賞受賞「少年譜」「ぼくのボールが君に届けば」など著書多数。
小説やエッセイで幅広い読者の支持を受けている現代文学の旗手

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中学入試の合否を決する”決め手”は第1志望校攻略のための1年間のプログラム作成にあると考えて、その年間のプログラムを「3の段階」に分けて作るとよいでしょう。

       第1段階は『夏期講習』が始まるまで

       第2段階は『夏期講習』が終わるまで

       第3段階は『冬期講習』が終わるまで

しかし、この作業を初めて中学受験を体験されるご父兄には重荷になるでしょう。だからといって塾に相談をもちかけても適切なアドバイスをしてくれるとは限りませんね。

そこで、中学受験を知り尽くしたプロチュータ。その効果のほどは絶大。何故なら、マン・ツー・マンによる個人対応で3段階のプログラム作成は勿論のこと、年間を通してのメンタルなサポートやフォローもしっかりやってくれます。

座右の師=プロチューター20%の合格率を80%にしてしまうミラクルチュータを持つーこれが合格への最短距離だと断言できるでしょう。

志望校合格のカギ、それは徹底した年間プログラム作成とメンタルサポートとフォローができるプロチュータの存在です。

そして、この1年間で、ライバルに決定的な差をつけ、『合格』の2文字を勝ち取りましょう。



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 すべては『三教科合格』のためにー過去問国語『満点』を目指す!!

ー過去問データベースー算数・国語・理科・社会

開成中学昭和49年~平成21年
麻布中学昭和49年~平成21年
武蔵中学昭和49年~平成21年
駒東中学昭和51年~平成21年
筑駒中学昭和51年~平成21年
灘中学昭和51年~平成21年
ラ・サール中学昭和51年~昭和63年
慶應普通部昭和51年~平成21年
慶應中等部昭和51年~平成21年
慶應湘南藤沢平成6年~平成21年
早実中学昭和51年~平成12年
早稲田中学昭和51年~平成12年
海城中学昭和51年~平成12年
巣鴨中学昭和51年~平成12年
桐朋中学昭和51年~平成12年
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精華、国立学園、学習院、立教、慶應幼稚舎、光塩、成城学園、暁星、桐朋、成蹊、星美、田園調布双葉、小野学園、文教大附属、聖徳学園、作新学院、玉川学園、聖学院 川村、国立音大附属、洗足学園、聖徳大附属、東横学園、淑徳、宝仙、千葉日本大附属、御茶ノ水附属、筑波大附属、学芸大竹早、学芸大小金井、学芸大世田谷、横浜国立大附属、埼玉大附属、山形大附属













高楼方子 『記憶の小瓶』



 黒いつまみをぐるんと倒してかける仕組みのその鍵は、固くて渋くて、一度閉めたが最後、子どもの手で縦に戻すことは、とうてい無理な代物なのだった。それを承知で試みては手を痛くした。あの痛みさえ思い出すのだけれど、黒い鍵を思い描けば、それが、姉によって魔法のように開けられた、ある晩のことにつながっていく。

 あれは、寝間着に着替えている途中で、何かひどい悪さをして姉を泣かせた私が、烈火のごとく怒った母によって外に放り出され、鍵をガチャリとかけられた時のことだ。靴下どめが膝のあたりまでずり落ちたような恰好のまま地面に起き上がり、半狂乱になりながら、「ごめんなさい、ごめんなさい!入れて入れて!」と泣き叫んで玄関に取りすがると、戸の向こうでは、同じくらいに半狂乱になって、「許してあげて許してあげて!」と泣き叫ぶ声と、母と姉が鍵のつまみをめぐってもみ合う気配がし、そのとたん、玄関の戸がガラリッと開けられ、現れた姉と向き合ったのだった。私たちは、一瞬泣きやんで、ぽかんと顔を見合わせた。二人の驚きの大きさは、同じだったと思う。


 あるいはまた、緑のペンキがはげ落ちた、たてつけの悪い外扉のある土間---。

 薄緑色の木のドアを、ギイバタンギイバタン開け閉てしては、出たり入ったりして遊んだ光景に目をこらすと、土間に穴を掘って宝を埋めたことを思い出す。宝を埋める、というのが流行った頃、私たち姉妹は、サッちゃんの姉妹と組み、まず初めにサッちゃんの家のそばに共同の穴を掘って埋めた。

 ところが、ほどなくして、その穴が荒らされたのだった。

 「きっとモトコちゃんだ。あの時、こっちを見てたもの」


 ぜったい安全な場所を求めて、今度はうちの土間にせっせとシャベルを突き立てたのだった。

 もっとも、何日もそこに落ち着いてはいなかった。あまりの安泰さに退屈し、私たち四人は再び暗く狭い土間にこもると、またまたシャベルを突き立てずにいられなかったのだ。



問 「あまりの安泰さ」という表現から読み取れる「私たち」の気持ちを答えなさい。



e: これは「土間」に「宝物」を埋めた思い出ですね。

F: 初めに埋めた「宝物」が何者かに荒らされるという「大(?)事件」が起こります。

e: 目撃されたというだけで疑いをかけられた

F: 「モトコちゃん」の宝を

e: 今度は仕返しに掘り返したあと

F: 「ぜったい安全な場所を求めて」

e: 「うちの土間にせっせとシャベルを突き立てた」

F: 私たち四人でしたが……

e: 「あまりの安泰さに退屈し」てしまいますね。

F: 万全の態勢でモトコちゃんの”反撃”を待っていたのに

e: ナンにも起きないので拍子抜けしてしまったという訳ですね。

F: そのときの気持ちが

e: 「あまりの安泰さ」という風に表現された?

F: 「安泰」がなによりのはずなのに

e: スリムを求める気持ちは”平穏無事”ではどうにも我慢できない?

F: 何かが起こるのを期待しているにもかかわらず

e: 何も起こらないことを何か物足りなく感じる気持ちですか?

F: 心の奥底で何か”問題”が起こることをひそかに待ち望んでいるんですが……



 なんとまあ、いろんなことがあったろう、たっぷりと充分に。

 それなのに私は、「おばあちゃんの家」に引っ越すと同時に、子ども時代が中途で断ち切られたように思わずにはいられないのだ。不本意に捨てられた教科書のように。赤いコートをじっとにらんで、乗りこえたつもりになっていた失われたものへの思いは、心の底で、ずっとくすぶっていたのだ。



問 「赤いコートをじっとにらんで、乗りこえたつもりになっていた失われたものへの思いは、心の底で、ずっとくすぶっていたのだ」という表現から、どのようなことわかりますか。



e: これはちょっと手強いですな。

F: 「私」の子ども時代の思い出といえば…

e: 「玄関、廊下、茶の間、四畳半、台所、お風呂、トイレ……」

F: といった「子ども時代の風景から、または手触りから」甦みがえってきます。

e: 同じように、教科書を捨てられてしまった「私」の

F: 「子ども時代が中途で断ち切られたよう」な”悲しみ”は

e: その時、目に映っていた「コート」の赤い色と共に

F: 深く「私」の心に刻み込まれています。

e: 「コート」の赤い色が強烈に鮮明だったんでしょうね。

F: あるいは、そういう忘れられない”苦い”思い出だったからこそ”赤”はよりいっそう印象づけられたのかもしれませんね。

e: 「私」にとって”赤”は”おどおど”しい色、って感じかな?

F: ”グミの実は赤い”



 むろん、もっと不本意に、もっと決定的に、もっと苛酷に、子ども時代に訣別させられた人々のことを思えば、こんなのが寝言であることは、いうまでもないのだが。



問 「もっと不本意に、もっと決定的に、もっと苛酷に、子ども時代に訣別させられた人々のことを思えば」とありますが、たとえば君はどんな人々を思い起こしますか。


 ---そして、そんな寝言を言うような人間だからこそ、さらに、こんな寝言まで言うのだ。すなわち中途で断ち切られたという思いが、子ども時代をきっぱり「過去」にするのを阻み続けるものだから、私は、ずるずると子ども時代に関わり続けることを選んでしまったのかもしれない、子どもの本を通して、などと---。


問 「子ども時代に関わり続けることを選んでしまった」のはなぜですか。



e: 直前に「子ども時代をきっぱり「過去」にするのを阻み続ける」とありますね。

F: つまり「子ども時代をきっぱり『過去』にする」ことがどうしてもできないんですね。

e: なぜなら、「子ども時代が中途で断ち切られたように思わずにいられな」かった「私」ですから。

F: ”本意”の上での別れではなく

e: ”不本意”に「訣別させられた」という

F: 承知の上と言いますか

e: 納得の上

F: ではないですからね。

e: そういう思いが「子ども時代に関わり続けることを選」ばせたと…

F: 楽しかったはずの「子ども時代」が自分の意志とは

e: 関係のないところで不意に断絶させられてしまったという思いが

F: 「私」が「子ども時代」に訣別することを拒んでいるのですね。

e: 無理矢理の”訣別”が

F: 「子ども時代」は”過去”のものだと

e: ”割り切る”ことができないということでしょ!

F: ”おとな”になっても……

e: 「赤いコート」と言い「黒い鍵」といい

F: あとは「土間の穴」ですか?

e: 言い方は悪いですが、”グロテスク”な思い出になっちゃったということですかね……

F: 「グロテスクへの招待」?

e: 手塚治虫

F: 思い出は赤いランドセルとともに……

e: ”忌まわしい”記憶は思い出とは呼ばない!?

F: ”記憶”と「思い出」とは違う?

e: 記憶も浄化されれば思い出になるでしょうが。

F: 忌まわしい記憶は浄化されることがないでしょうから

e: 「思い出」になることはない?

F: 「思い出の小瓶」ではなく

e: 「記憶の小瓶」なんですね。


 記憶はマゾヒストである。あなたを辛い目に合わせるのが得意である。
 (クロード・オリヴェンシュタイン)






栴檀は双葉よりかぐわし

 児童文学界きってのストーリーテラー高楼方子のルーツが察せられる面白いエッセイ集だ。
 かつて講演の中で聞いた子ども時代の話。

 中学生だった高楼さんは「飛ぶ教室」を読んでいて、その面白さにはまった。そして、この面白いお話はケストナーというおばさんがいなければ、この世に存在しなかった世界なんだ!という事実が閃光のように自分に衝撃を与えた。そう語られた。その時にも、なるほど。物語というものの魔力を知っている方だからこその作品群だよな、と、高楼さんの世界のルーツに繋がる糸を掴んだ気がしたものだ。
 でも、この数々の幼児期の瞬間を切り取った記憶を知ると、さらに根元的なところまで糸が繋がってくる。
 無論、ひとつ一つのエピソードは普通に読んでも趣のある楽しい話だ。そしてそれ以上に「物語に傾倒しなければならなかった彼女」の繊細にして冷徹な大人達への目にも気付くことになる。(by おっか3より)

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家庭教師-『過去問との闘い』-中学受験国語専科

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家庭教師-『過去問』と闘う-中学受験国語専科


e:゛われ闘う。故に、われあり゛

F:闘う=解くに置き換えればいいですね。

e:『過去問』を解くということは

F:問題と゛格闘゛しているということですね。

e:これはお子さんだけでなく

F:゛われわれ゛もです!

e:またお子さんも『過去問』を通して

F:゛われわれ゛と戦っているんですね。

e:゛闘う゛と゛戦う゛とは違うんですか?

F:対『過去問』

e:対゛家庭教師゛

F:レベルが高いから

e:゛壮絶な゛

F:゛闘い゛&゛戦い゛になります。

e:まさに真剣勝負?

F:お互い゛死力を尽くして゛

e:それこそ、『過去問』と゛お互い゛の

F:礼儀でしょう。

e:2~3時間が終わったあとは

F:もう゛へとへと゛状態ですね。

e:もうお互い、口もききたくないという感じでしょう。

F:で、親御さんとの話になっちゃうんです。

e:お子さんは゛大人の話゛をよく聞いてますよ。

F:うかつなことは言えないてすよね。

e:つねにお子さんを゛意識゛して話さなければならないでしょう。

F:゛われわれ゛と゛親御さん゛の意見は

e:始めは食い違っていてもいいんです。

F:しかし、議論をして最終的に一致する必要があります。

e:お子さんにとって、議論の過程を聴かせることが重要なんですね。

F:まさしく゛授業゛を見せている感じなんですよ。

e:意見が一致することよりもですか?

F:゛一致する゛ことの方が、もちろん、大事ですね。

e:じゃあ、国会は参考にはならない?!

F:゛一致しない゛ですからね。

e:゛一致しない゛と゛不毛゛の議論になってしまう?

F:受験の世界では゛一致゛させるべきでしょう。

e:でないと、お子さんは゛迷走゛しますか?

F:゛統一性゛至上主義でいくべきでしょう。

e:われわれと親御さんの考えは統一され

F:合格するまで゛ブレ゛ないことですね。

e:゛船頭多くして船山登る゛って感じでしょうか?

F:お子さんにとって、゛だれ゛に聞いても同じ答がかえってくることが

e:安心につながる

F:少なくとも、こと、受験に関しては、ですね。

e:われわれも親御さんも同じ方向に向いていなければなりません。

F:『開成』と『筑駒』のボートレースがありました。

e:0.05秒の争いですね。

F:息が合わなければ勝てません!


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そこで、中学受験を知り尽くしたプロチュータ。その効果のほどは絶大。何故なら、マン・ツー・マンによる個人対応で3段階のプログラム作成は勿論のこと、年間を通してのメンタルなサポートやフォローもしっかりやってくれます。

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高楼方子 『記憶の小瓶』



内容(「MARC」データベースより)

幼少期の思い出は、みな幸福な記憶として輝くのだろうか?幼いこころのまっすぐさが、ときにおかしくもあり、せつなくも。繊細で鋭く、まっとうで滑稽な、幼い日々を綴ったエッセイ。



「この極私的な回顧話に意味があるとすれば、その一点につきるでしょう。」



 あの時私が着ていたのは、光沢のある赤のスプリングコートだった。あの瞬間のあの場の光景は、コートの赤と重なって見える。どう答えてよいかわからず、じっと伏せていた目に、その色だけが焼きついていたのかもしれない。

 あの日を境に、官舎は遠のいた。

 官舎から見る「おばあちゃんの家」は、すぐそこにある暮らしの一部だった。だからこそ、引っ越したからといって、何の違いもありはしないと思っていたのだ。けれど、基本の足場がどこにあるか、意外にもそんなことが、行動と心持ちを左右する力を有していたのだ。



問 「おばあちゃんの家」とありますが、「私」にとってそれまで「おばあちゃんの家」とはどのような存在でしたか。



問 「何の違いもありはしないと思っていた」とありますが、実際は「私」の予想に反してどのような変化がありましたか。



e: 「おじいちゃん」とか「おばあちゃん」は陰に陽に”影響力”は大ですな!?

F: そういう物語は今も昔もよく出題されます。

e: 身近な存在ではなくなってきましたからね。

F: 高度経済成長後に顕著になってきましたでしょ!

e: 東京オリンピック以後?

F: 大阪万博以後?

e: マックが銀座に上陸してから?

F: 断絶の世代の始まりですね。

e: ”積木の部屋”?

F: だんだん疎遠になってきた祖父母

e: 祖父母の死も身近じゃなくなってきた?

F: 想像の世界の人たちになってきましたね。
e: バーチャルな存在に、ねぇ……

F: 日本昔話で知る

e: ということで現実の世界では”祖父母”の影響力は皆無!?

F: 将来、”祖父母”にからんだ児童文学を書く作家は出てこなくなるんじゃないかと…

e: ほとんど”おかん”か”おとん”がからんだ物語ばかりですか!?

F: 動物の世界じゃ、”祖父母”が周りにいるなんて、そんなにないでしょう?

e: 人間も”動物”に回帰?

F: さて、「おばあちゃんの家」はどのような存在だったんでしょう?

e: 「おばあちゃんの家」は「すぐそこにある暮らしの一部」だったとありますね。

F: 普段あって当たり前

e: 取り立てて意識する存在のものではなかったのですね。

F: ですから、「引っ越したからといって、何の違いもありはしない」

e: 何か衝撃的な出来事が起こり

F: 「おばあちゃんの家」がある日、突然変貌してしまう

e: なんてことは想像もできなかった?

F: しかし、実際は「基本の足場」が

e: 「官舎」から「おばあちゃんの家」に変わってしまったことで

F: 意外にも「行動と心持ちを左右」されてしまいましたね。

e: 具体的にどう変わっていったかは、この後に書かれてますね。

F: 昨日まで住んでいた「『うち』(官舎)のそばを、同じ調子で駆け回ることはできなかった」

e: 慣れない「おばあちゃんの家」に「『遊ぼう』と呼びにくる友だちの声は、おどおど響き、前のように弾むことはなかった」

F: 「私はまもなく官舎の方へは行かなくなり、向こうからは、一番よく遊んだサッちゃんが、ごくまれに、ぽつりと訪ねてくるだけになった」

e: そういう予期せぬ”変化”が起こり

F: そんなに遠くない距離の”引っ越し”が

e: 「わたし」の生活に劇的な変化をもたらしたという訳ですね。



 前と同じつもりで官舎の友だちを訪ね、鬼ごっこ始めても、すでに別の人の家になってしまった「うち」のそばを、同じ調子で駆け回ることはできなかった。そして、「おばあちゃんの家」の---もう私の家に違いなかったのだけれど---暗く陰った玄関のドアをギイッと軋ませて、「遊ぼう」と呼びにくる友だちの声は、おどおどと響き、前のように弾むことはなかった。私はまもなく官舎の方へは行かなくなり、向こうからは、一番よく遊んだサッちゃんが、ごくまれに、ぽつりと訪ねてくるだけになった。

 三歳から八歳まで丸六年過ごしたあの官舎を、子ども時代の風景から、または手触りから、切り離すことはできない。

 玄関、廊下、茶の間、四畳半、台所、お風呂、トイレ……。官舎の細部に目を凝らせば、それを伝って記憶は際限なしに甦る。

 そう、玄関の鍵一つだって---。



問 「玄関の鍵一つ」はどのような気持ちを「私」に思い出させるものなのですか?



e: 「官舎」での楽しかった毎日の思い出は

F: 「子ども時代の風景から、または手触りから、切り離すことはできない」

e: 「玄関、廊下、茶の間、四畳半、台所、お風呂、トイレ」を伝って

F: 「記憶は際限なしに甦」ってくると「私」は語っています。

e: 「玄関の鍵」をめぐる記憶がその一つなんですね。

F: 「黒い鍵を思い描けば、それが、姉によって魔法のように開けられた、ある晩のことにつながっていく」とあります。

e: ひどい悪さをして姉を泣かせた「私」は

F: 烈火のごとく怒った母によって外に放り出され、

e: 「鍵」をガチャリとかけられてしまいますね。

F: 半狂乱になって泣き叫ぶ「私」でしたが…

e: なんと!意地悪された姉が

F: いじわるされ、「私」に泣かされたはずの

e: 同じ位、半狂乱になって

F: 「許してあげて!」と泣き叫びですからね……

e: ”姉妹愛”に戸惑う母親かな?

F: そして、母親ともみ合ったあげくに

e: 子どもの力ではとうてい開くはずがない

F: 「鍵」を開けてしまった!?

e: ”火事の馬鹿力”なんて言いますからね…
F: 一瞬泣きやんで、ぽかんと顔を見合わせた
e: あら、開いちゃった!?って感じですか?
F: その後、また「私」は泣き始めたという。

e: なぜまた泣き始めたんでしょうね……

F: 「私が悪さをしたというのに」

e: 結局、”二つ”の感情が交差したということなんでしょうか?





 子どもの頃ぐっとこらえた涙があふれそうになった。
 自分はまだ小さくて「大人」というものが絶対だった頃、何故あの時大人にあんなことを言われたのか、今でもわからないことがたくさんある。その大人とは家族であったり、先生であったり、友達のお母さんだった。自分が大人になった今では「親といえども、先生といえども、みんな人間」と割り切るようにはなったが、こうやって思い出すことがある以上、やはり子どもの頃の繊細な心に何かしらの衝撃を受けてしまったのだと思う。この本を読んで、その頃ぐっとこらえた涙があふれてしまいそうになった。時には苦い記憶としてよみがえるけれども、私にはこの記憶とあの頃の感情を忘れないでいようと思う。(by tsuyukusaより)

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中学入試の合否を決する”決め手”は第1志望校攻略のための1年間のプログラム作成にあると考えて、その年間のプログラムを「3の段階」に分けて作るとよいでしょう。

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高楼方子 『記憶の小瓶』



内容(「BOOK」データベースより)

幼少期の思い出は、みな幸福な記憶として輝くのだろうか?繊細で鋭く、まっとうで滑稽。いまピカイチの児童文学作家・高楼方子さんの幼い日々。



「人の幼少期の話は、自分の幼少期の記憶を呼び覚まします。」



 曾祖父母と祖父母のいる家で、父母と私たち姉妹の四人家族が暮らすのは、なにかと不自由だったために、二歳半の時に近くの官舎に移り住んだ。けれど、一年生の冬に曾祖母が亡くなってしまうと、「おばあちゃんの家」の住人は祖父と祖母だけになってしまった。私たち家族は、再び、「おばあちゃんの家」、つまり私の生家に戻った。三年生になってまもなくのことだ。
 「いい?間違わないでね、今日は学校からまっすぐ、おばあちゃんの家に帰るんだよ」

 そう言われた日、間違わずに「おばあちゃんの家」に帰ると、官舎のおばさんたちが、引っ越しの手伝いに来ていた。「おばあちゃんの家」にそのおばさんたちがいる、という光景は奇妙に映った。



問 「『おばあちゃんの家』に帰ると、官舎のおばさんたちが、引っ越しの手伝いに来ていた」とありますが、この様子を見た「私」はどのような感じを抱きましたか。



e: 高楼方子ですか!?

F: 今回は”随筆”ですね。

e: エッセイもたまには良いでしょう。

F: 向田邦子、幸田文もいいでしょうが……

e: ”栴檀は双葉よりかぐわし”!?

F: 『十一月の扉』『時計坂の家』

e: 過去にいろんな学校で出てましたね。

F: さて、直後に「『おばあちゃんの家』にそのおばさんたちがいる、という光景は奇妙に映った」とあります。

e: 子どもでなくても”奇妙”に思うでしょう?

F: その日は、間違えないようにわざわざ

e: 「官舎」ではなく「おばあちゃんの家」に帰ったはずなのに……

F: そこにいたのは「官舎」のおばさんたちですからね。

e: ”奇妙”に思うのは当たり前でしょ。

F: ”奇妙”な感じがしたのはそれだけじゃないでしょう。

e: 「私」は「官舎」に住んでいた。

F: 「官舎」のおばさんたちとは顔見知りだった。

e: 今まで何度も顔を合わせていたでしょうね。

F: それは「官舎」という狭い場所の範囲内のことですね。

e: 「おばちゃんの家」と”おばさんたち”

F: どちらもよく知ってはいますが

e: 「おばあちゃんの家にいる官舎のおばさんたち」というコラボ?

F: 初めての光景?

e: その光景が「奇妙」に映って

F: 何か”変”じゃないという気持ち

e: 一言でいえば?

F: 何でしょうね……



 「まあちゃん、ごめん、もういらないと思って、一年と二年の教科書、おばさん捨てちゃった」


 足が止まり、同時にどっと、なんともいいがたい悲しみがこみあげてきた。



問 「なんともいいがたい悲しみ」とありますが、なぜ「私」は「悲しみ」を抱いたのですか。



e: 当時の「わたし」は小学生何年生?

F: 三年生ですからね…

e: 「なんともいいがたい悲しみがこみあげてきたんでしょう」!?

F: 「どう答えてよいかわからず」

e: 突然訪れた訳のわからない”悲しみ”にただ茫然自失状態?

F: まだ子どもですから、おとなのように

e: 漠然とした”悲しみ”に浸ることはできないでしょう。

F: しかし、この”悲しみ”は「じっと伏せていた目」に映っていた

e: 「赤いスプリングコート」とともに

F: 「わたし」の心の奥深く刻み込まれていたのです。

e: 「わたし」は後でこの時の”悲しみ”を振り返っていますね。「不本意に捨てられた教科書のように」

F: 「赤いコートをじっとにらんで、乗りこえたつもりになっていた失われたものへの思いは、心の底で、ずっとくすぶっていたのだ」

e: 正しく、「不本意に捨てられた教科書のように」

F: 「子ども時代を中途で断ち切られたように思わずにはいられない」

e: 教科書が”不本意”に捨てられたことは

F: 「子ども時代を中途で断ち切られた」という感情につながっているんでしょうね。

e: 思い出が一瞬のうちに捨てられたという感覚ですかね。

F: 幼い頃からのいっぱい詰まった思い出が

e: 一気になくなってしまったような……

F: 赤い「その色だけが焼きついていた」……

e: 「あの瞬間のあの場の光景は、コートの赤と重なって見える」

F: 「どう答えてよいかわからず」

e: 「じっと伏せていた目に」







高楼方子エッセイ『記憶の小瓶』2004年(クレヨンハウス)

高楼方子(たかどのほうこ)1955年函館市生まれ。東京女子大学文理学部日本文学卒業。児童文学作家。『十一月の扉』(1999年リブリオ出版、産経児童出版文化賞フジテレビ賞受賞)

 香しい小瓶

 プロローグとして小さな字で「人の幼少期の話は、自分の幼少期の記憶を呼び覚まします。」という一文があります。そして謙虚に「この極私的な回顧話に意味があるとすれば、その一点につきるでしょう。」と次の文が続くのです。  子供の頃の思い出は、楽しかったことも覚えているにはいるけれど、どちらかかといえば怖かったこと、心配や不安、居心地の悪かったことなどの方が、鮮明な気がします。
 定かでない記憶であっても、自分の中に定着したその場面には、なじみ深いものがあると思うのです。
 高楼さんは、このエッセイでそれをとても丁寧に文字に写し得ています。
 本当であろうが事実と異なっていようが、ここではもうそれは問題ではないのです。こんなふうだった?……ということでも、高楼さんのフィルターを通して、高楼さんの中に在り続けた”光景”を見るのが楽しいのです。
 プロローグの暗示にかかったわけでもないでしょうに、しばしば私は私の中の、似たような記憶と対面することになりました。
 天井の木目の中にいる変なもの、納屋の隅の暗がり、吠える犬のいる家の前を通る時の緊張感、祖父母の家の匂い……。さまざまなものを思い出し、自分の中に仕舞われていたそれらに驚きました。自分が確かに子供時代を生きていたということが、今にしてわかります。
 高楼さんの各章に描かれた幼い姿に思いを馳せ、子供の、蕾のような言葉の発露を楽しく、ある意味では切なく感じながら読みました。
 普段は意識に立ちのぼってこないこどもであるけれど、なんと香しい小瓶であることよ……と、ひとり悦に入って楽しんだ作品でした。(byシンプルカンパニーより)

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井上ひさし 「春休み」



むずかしいことをやさしく
やさしいことをふかく
ふかいことをゆかいに
ゆかいなことをまじめに
       書くこと

      井上ひさし



 自分にも家出の経験があったこと思い出したのだ。やはり春休みだった。弟としめしあわせて収容されていた擁護施設を脱け出し、工事中の市営住宅に泊まったことがある。近くに住んでいた人が勘づいて交番に連絡し、それで養護施設に連れ戻されてしまった。何が原因だったのか。いじめっ子に毎晩のように呼び出されて殴られるのがいやになったのか、家が恋しくなったのか、あるいはほかの理由だったのか、もう三十何年も前のことですっかり忘れてしまった。ただ、なにか訴えたいことがあったのはたしかだ。これだけは言っておきたい。だがそれを言葉で言い表したのでは弱すぎる。実際に動いてみせて、その意味を大人に汲み取ってもらいたい。そんなつもりがあって脱走を企てたような気がする。だからひと晩で連れ戻されたときは口惜しかった。いまから考えると、表現がまだ完結しないうちに連れ戻されたから、あんなに口惜しかったのではないか。表現が完結すれば、それで気がすむのだ。諦めがつくのだ。
 「じつは書きものの参考にしようと思っただけです。ありがとう」

 「ほんとうにそれだけですか」

 刑事がなかなか電話を切ろうとしないので、こっちのほうから送受器を置いた。



問 「『ほんとうにそれだけですか』……送受器を置いた」とありますが、「刑事」は「わたし」のどのことばを気にしていたのですか。また、そのことはどの表現から判断できますか。



e: 具体的に”刑事”に質問をしていますね。
F: 「わたし」が「兄弟で家出したという届けは出ていませんか」というところですね。

e: それを気にして

F: 「わたし」は何か知っていると思ったんでしょう。

e: それで、なかなか電話を切らなかった?

F: このときの気になることばを受けて

e: 「あなたの気になさっていた兄弟が…」

F: という”刑事”のことばがあるのです。



《第三場面》(転)

 「猫殺しの男」の登場で、意外な展開になる場面



 あの兄弟は今夜も目の前の建売住宅へやってくるだろうか。それはわからないが、八時すぎに仕事部屋の灯りを消した。その方が入りやすいだろう。たいくつしのぎに低く音楽をかけ、机の上に敷いた座布団にあぐらをかいた。もちろん窓は半分ばかり開けてある。


 台所から洩れた灯りが並んでおしっこをする二人をぼんやりと浮かびあがらせている。どこかで甘ったるい鳴き声がした。

 「このへん猫が多いなあ」

 「死んだ猫も多いよ。今朝だって三匹もいたもの」


 兄は身体をゆすってから雨戸に寄った。弟もひとゆすりしてその後に従った。うまく雨戸が開いた。ガラス戸も開いた。だが、そのとき、だれかが庭に回ってきた。

 男は庭にしゃがむと、ビニールからなにか掴み出し、そのへんにひとつひとつ丁寧に置いてまわっている。

 とっさにこの男が猫殺しだとぴんときた。

 おまけにうちの飼い猫のケンもこの男のまいた毒団子で殺されている。だから「あんたはどこのだれだ」と怒鳴ってやってもよかったのだが、それはできなかった。 



問 「『あんたはどこのだれだ』と怒鳴ってやってもよかったのだが、それはできなかった」のはなぜですか。



e: 「わたし」はなんとかして「少年たち」の家出までした思いを遂げさせたい、と。

F: 「少年たち」に危険がおよばないように見守りつつ、ですね…

e: それで、目の前の「建売住宅」に二人の宿を
F: 確保させてやりたかったのです。

e: 「少年たち」が「男」をやりすごすことを望んだという訳ですね…



《第四場面》(結)

 結局「少年たち」は「母親」のもとに戻るという場面



 こっちが黙っていれば、あの兄弟は男をやりすごすだけでいい。それだけで今夜の宿が確保できるだろう。

 ところが声をあげたのは兄弟のほうだった。


問 「ところが声をあげたのは兄弟のほうだった」とありますが、この時の「わたし」の気持ちを答えなさい。



e: 「わたし」の思いとは裏腹に

F: 「少年たち」は自分たちの「宿」を心配するよりも

e: 「男」の”不正”を暴く?

F: 「男」の悪事に敢然と立ち向かうことを選択したのですね。

e: ここには「わたし」の”意外な”気持ちと

F: ”驚き”がありますね。



 「今朝もずいぶん猫が死んでたけど、おじさんが下手人だったんだね」

 「そんなことしちゃいけないんだぞ。学校の先生も言ってたもの。みなさん、どんなにうるさいと思っても毒団子で野良猫を退治しようとしてはなりませんて」

 「なんだ、おまえたちは」

 「なんでそんなところにいるんだ。おまえたちがこの建売りを買ったのか。そんなことはできないよな。となるとおまえたちは住居侵入罪をおかしていることになるな。交番に行こうか」

 「いやだよ」

 二人は左右に分かれて縁側から飛び出し、門の方へ走り去った。わたしは男に声をかけた。
 「団子を拾って消えてくれ。さもなきゃわたしが交番にお供するが……」

 わたしの声がとげとげしていたとすれば、それは男のせいで兄弟がまた宿さがしをしなければならなくなったじゃないかと腹を立てていたからだろう。もっとも、あくる日、男に感謝しなければならないことが起きた。警察の保安課に電話すると、例の刑事がこう言ったのである。

 「あんたの気になさっていた兄弟が昨夜遅く家へ戻りましたよ。今朝、母親と三人で挨拶にきました」

 「それで、母親の再婚について二人はなにか言ってましたか」

 「べつになにも。家出して胸の中がすっきりしたんじゃないんですか」

 「すると、つまり……わけだ」



問 「……」の部分にはいることばを答えなさい。



e: 「兄弟」が自分の家に”自首”?

F: 自らの意志で自分の家に戻ったので

e: ”刑事”のせりふにありますね。

F: 「家出して胸の中がすっきりしたんじゃないか」ということばから察しがつきますよね。

e: 「家出」してまで親に訴えたかった気持ちに
F: ”整理”がついたということでしょう。



 「はあ……?」

 「いや、いまのはこっちのひとつごとです。ありがとう」

 ひょんとするとあの毒団子の男は、二人の兄弟のために、あるきっかけをつくってやったことになるのかもしれない。今度、団子を置きにあらわれたら二人にかわってお礼のひとつも言わなければならないと思っているのだが、男の姿はあれっきり見えないようである。



問 「今度、団子を置きにあらわれたら二人にかわってお礼のひとつも言わなければならないと思っている」とありますが、この時の「わたし」の気持ちを答えなさい。









《作者紹介》

井上ひさし(いのうえひさし)1934年~。山形県生まれ。小説家・劇作家。主な作品小説『青葉繁れる』『吉里吉里人』『四千万歩の男』戯曲『道元の冒険』『頭痛肩凝り樋口一葉』など。
井上ひさし「春休み」(『ナイン』所収)講談社文庫。ジュニア文学館。大都会のさまざまな風情を背景に、そこに暮らす人々の人間模様を綴った短編集代表作「ナイン」をはじめ「握手」など16編。

 市川市国分町三丁目に転居したのは昭和四十二年(1969年)十月。市郊外の下総国分寺そばに建ち並ぶ建売住宅の一つで、ひさしが三十二歳。「ひょっこりひょうたん島」。

 ひさしが家族と住んだ市川市北国分一丁目三の二十番地の建売住宅は小塚山公園にほど近い。ひさしが江戸川べりの高台と書いているとおり、以前は川を見下ろすことができたそうだ。現在では北総開発鉄道が開通し、矢切駅が歩七、八分のところに出来ている。JR市川駅から市川松戸線を通るバスに乗って、バス停留所名・栗山坂下で降り、上り坂を上がり、化学療法研究所や式場病院の北側を通った。バス停から15分くらいにはかかる。栗山坂下は現在、矢切駅。付近に水上勉が住んでいたこともある。式場病院は散策したり娘と遊んだ所。また、永井荷風も同病院を訪れている。


《読解のポイント》

 問題を解くに当たって必要とされることは、登場人物の背景と、登場人物どうしの関係を整理し、場面ごとに登場人物の心情を読み取ることです。全体を通じて物語の内容が整理できているかどうかが問われる問題が最後の方の設問に出てくる。本文全体から必要な要素をまとめることが求められる。

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井上ひさし 「春休み」



《第一場面》(起)


 「わたし」が「家出少年たち」の存在を知る場面


 明け方、窓が白くなった。壁に当たった朝の陽光が仕事部屋の窓に照り返しているのである。これも畠が住宅になって生じた変化のひとつだろう。煙草の煙を追い出そうと思って窓を開けた。深呼吸をふたつかみっつしてから床につこうと窓近くへ身体を寄せたとき、建売住宅の縁側の雨戸が内側から静かに開いた。


 小学の高学年ぐらいの、西武ライオンズの野球帽をあみだにかぶった男の子が、読売ジャイアンツの野球帽をかぶった小さな子の手を引いて庭におりた。ジャイアンツは小学の低学年といったところである。ライオンズはガラス戸と雨戸とを丁寧に閉めた。二人とも背中に小さく細く縛りあげた布製の塊を背負っている。どうやら寝袋らしい。肩から斜めにさげているのは水筒だ。

 「今日は登校日か」



問 「今日は登校日か」ということばに込められた気持ちを答えなさい。



e: 誰の言葉ですか?

F: これは「兄」のことばでしょう。

e: この後を読んでいくと、「弟」の方は登校するつもりなんですかね…

F: 「学校は行かなければならないところ」と思ってます。

e: 「学校へ行く」ことを考えてますよね。

F: ところが、一方、「兄」の方はどちらかといえば、同級生に見つからずにどうやって過ごすかを考えています。

e: 「登校日」は同級生に見つかりやすいですからね。

F: と言っても、「兄」も学校へ行かないことに

e: 少しは気がひけるところはあるでしょう……

F: 学校の近くにはいたくない、離れたい

e: で、「筑波博へでも行くか」



 「どうするの」

 「学校へ行くの」

 「行ったらばれるぞ」


 「お金はまだあるよね」

 「三万ちょっと」

 「ぼくも二千円もってる」

 二人は身体をゆすってから門のある方へ歩いて行った。門は建物の向こう側にあって、わたしの立っているところからは見えない。深呼吸するのも忘れて、わたしはしばらくのあいだぼんやりと見おろしていた。



問 「深呼吸するのも……庭を見おろしていた」とありますが、この時の「わたし」の気持ちを答えなさい。



e: これは簡単ですね。

F: 目の前の「建売住宅」に「家出少年」を見つけたときの気持ちです。

e: 要は、二つの気持ちを書けばいいんでしょう。

F: 「思いがけないことに出くわせたときの気持ち」と

e: あと一つは?

F: 「この少年たちへのおとなとしての気がかりな気持ち」ですね。



《第二場面》(承)


 「知り合いの刑事」に電話しながら、結局「家出少年たち」のことを言わなかった場面



 「お嬢さんがまた家出ですか」

 わたしが名乗ると、刑事はやれやれといった調子で言った。女優の卵の次女が去年の夏二度つづけて家出をしたことがあって、刑事とはそのとき知り合った。



問 「『お嬢さんがまた……といった調子で言った」とありますが、「刑事」が「やれやれといった調子」だったのはどうしてですか。



e: これは難しいでしょう?

F: おとなの気持ちの読み取り

e: それも”刑事”の?!

F: ポイントは”刑事”と「わたし」の関係ですね。

e: ”関係”

F: 親密の度合いですね…

e: ”刑事”と「わたし」がどれだけくらい親密かということですか?

F: 全く見知らぬ間柄じゃないですね。

e: 「娘の家出事件」を通じて

F: ”刑事”と「わたし」は親密になっていることがわかります。

e: 身近に感じている、って訳ですね…

F: そんな「わたし」にこの”刑事”は何を感じているかを読み取るということです。

e: さて、子供たちは読み取れますか……?「わたし」の立場で考えるのが基本でしょ!

F: もちろん!”父親”としての、ですね。



 「そうではないんですが、家出人についてすこしうかがいたいことがあって……。春休みは家出人が多いんですか」

 「子どもの家出がふえますな」

 「兄弟で家出したという届けは出ていませんか」

 「出ています。駅前の美容院の女主人が三日前の晩に署へかけこんできましたよ。彼女は未亡人です。ところが通いの、若い男の助手が夜になっても帰らなくなった……」

 「つまり特別の間柄になった?」

 「そう。結婚することになった。それが二人にとってはおもしろくなかったらしい」

 「なるほど」

 「じつは……」

 と言いかけてそっと声をのんだ。



問 「『じつは……』と言いかけてそっと声をのんだ」とありますが、「じつは……」と言いかけて言わなかったのは、どんなことですか。また、「わたし」が「そっと声をのんだ」のはなぜですか。



e: まず、どんなこと?

F: ”刑事”に電話していることからわかるのは?

e: 「家出した少年たち」のことを伝えようとしたことでしょ。

F: 家の前の「建売住宅」に

e: 未入居の、ね。

F: そんな場所に家出をしたらしい「兄弟」がいること

e: 通報しようとしている?

F: どのように”報せ”ようとしているのか、

e: その内容を答えればいいんですか?

F: 次に、なぜ「わたしはが「そっと声をのんだ」のでしょうか?

e: ポイントは「わたし」の過去の”家出の経験”ですね…

F: そのとき、何を感じたか?

e: 自分もかつて家出したことがあり

F: そのとき、すぐに連れ戻されて

e: ”悔しい”思いをしてますよね。

F: 口惜しい思いをしたことがあり、「少年たち」には…

e: 遂げさせたい?

F: さて”何”を?




 小説「ナイン」の舞台は80年代に設定。そこからさらに20年前のことを振り返る物語。20年前の野球少年たちも、いまでは大人になり、それぞれの職業、それぞれの生活の場へと「ばらばらになって」散っていきました。少年たちが住んでいた商店街の風景も、その後の20年で大きく変わっていく。その時間の経過とともに何が失われたか、20年前の少年たちは何を持っていたのかていねいに読み取る。(NHK高校講座現代文「小説を読む」より)

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井上ひさし 「春休み」



内容(「BOOK」データベースより)

東京の下町、浅草橋、門前仲町、小岩…。都心の四ツ谷、赤坂、新宿など、大都会のさまざまな風情を背景に、そこに暮らす人びとの人間模様を綴った短編集。新道少年野球団の選手のその後の消息を描いた表題作「ナイン」をはじめ、「太郎と花子」「傷」「記念写真」「会話」「握手」など、佳編16話収録。



【内容紹介】

懐かしい町の匂いを求めて、私はときどき駅に降りてみる。四谷しんみち通り、20年前の野球少年たちはどうしているだろう。ぷ-んと木の香をさせていた職人のおじさんは元気にしているだろうか。バスの窓から見る風景も、雑踏の中で垣間見るドラマも、東京の町はすべて通りすがりの私の胸に熱く迫ってくる。



《導入部》

 「わたし」を取り巻く状況の説明

 「わたし」の家の前に「建売住宅」ができたことによる変化



 建売住宅の工事が八棟とも全部終わったという報せがあったので、しばらくぶりで東京の東の郊外にある自分の家へ戻ってきた。仕事部屋は二階の西の隅にある。窓も西に向かって開いていて、その窓の机にしがみついて文章を紡ぎ出すのがわたしの生業である。


 留守中に変事がおこっていた。ケンという名の雄の飼い猫がカニの肉に毒を混ぜてこねた団子を喰って死んだのだ。そして当然のことだけど仕事部屋の窓からの眺めも変わった。畠のさらに向こうが市所有の自然公園で、いつも春休みの頃には来たの芽が一斉に芽を吹いてぼうっと樺色に煙って見えたものだが、その、心がうきうきする景色は建売住宅の白壁にぴしゃりととさえぎられてしまった。


 夕闇に溶けて消えていく白壁を眺めながらそんなことを考えていると、壁の上部に穿たれた座布団ほどの大きさの屋根裏の高窓にちらと灯影が動いた。室内に職人が残っていて最後の仕上げに精を出しているのだろうか。とはいえ灯影の動いたのがほんの一瞬というのはおかしい。だれかが居残って仕事をしているのなら、高窓にずっと灯がうつっていてもよさそうなものだ。責任者かなんかが見回りにきたのだろうか。小さな疑問を抱いたまま窓を閉めて机に向かった。



問 「小さな疑問を抱いたまま窓を閉めて机に向かった」とありますが、この時の「わたし」の「疑問」を、心の変化にしたがって答えなさい。



e: 井上ひさしと言えば『11匹のねこ』

F: 『あくる朝の蝉』

e: 1973年9月「別冊文藝春秋」

F: 「汽車を降りたのはふたりだけだった」で始まります。

e: 「それからぼくらはエゾ蝉の鳴き声にせきたてられるようにして通用門の方へ歩いて行った。」で終わりますね。

F: 思いやりにあふれた兄弟の

e: 特に兄のですね……

F: 短編作品集『四十一番の少年』(文春文庫)日本ペンクラブ:『電子文藝館』

e: 井上ひさしの作品と言えば、こればっかり選ばれる?

F: いろんな学校で出題されてますからね……
e: 中高の教科書にも、でしょ?!

F: この「春休み」といい

e: 「握手」もいいでしょ?

F: 読解の中心は

e: 「家出少年」を見守る「わたし」の心情ですか?

F: 「わたし」は最後まで、少年たちに直接働きかけることはしません。

e: 仕事場の窓からじっと見守り、聞き耳を立てているだけですね。

F: 少年たちが”家出”をしていることに気づいた時

e: 警察に問い合わせては居ますが

F: 結局、少年たちのことを通報せずに終わっています。

e: この時の「わたし」の心情如何?

F: 少年たちの”家出”が終わった時の「わたし」の気持ちの把握が

e: ”メインデッシュ”になるわけですね。

F: 「夕闇に溶けて消えていく……責任者かなんかが見回りにきたのだろうか」

e: この場面での「わたし」の心の揺れを捉える
F: ”心”のゆれと言いますか、微妙な”動き”を読み取るということですね。

e: 建売住宅の窓に灯影が見える

F: この後の物語の展開を”暗示”しています。

e: まだ人が入っていないのに気になる

F: 思い直して

e: 職人が仕上げに来たのだろう

F: それにしては時間が短い。

e: 責任者の見回りだろうか、でも変だ

F: 最後の小さな”疑問”が残ったまま

e: 窓を閉めた……

F: 当時は……


 市川市国分町三丁目に転居したのは昭和四十二年(1969年)十月。市郊外の下総国分寺そばに建ち並ぶ建売住宅の一つ。(「房総の作家」より)

e: で、ひさしが三十二歳ですか?

F: 「ひょっこりひょうたん島」が

e: 貝塚遺跡でもある「小塚山公園」を愛してたひさし

F: 本文のはじめのほうで自宅から眺めて木々の芽吹く季節の美しさが描かれています。

e: バブルの高騰期に邸宅を購入?市川は懐かしいでしょう?

F: 東京に出て来た当時、曽谷に住んでいました。

e: 国分は隣でしょう?

F: 駅は本八幡でしたが、市川駅から国分経由で歩いて帰ったこともありました。

e: 隣と言っても北国分はどちらかと言えば、松戸に近いでしょ?

F: ”矢切の渡し”が近いですからね…

e: 柴又とか…野菊の墓文学碑

F: 今は北総開発鉄道が開通し「矢切」という駅ができ便利になったみたいです。





井上ひさし Profile.
作家・劇作家
市川市文化振興財団理事長
こまつ座代表
1934年11月16日、山形県東置賜郡河西町(旧小松町)に生まれる。上智大学外国語学部フランス科卒業。在学中から、浅草のストリップ劇場フランス座の文芸部兼進行係となり、台本も書きはじめる。戯曲「うかうか三十、ちょろちょろ四十」が芸術祭脚本奨励賞を受賞。放送作家としてスタートする。64年には、その後5年間におよぶNHKの連続人形劇「ひょっこりひょうたん島」(共作)の台本を執筆。現代的センスによる笑いと風刺で多くの人々に愛された。69年には、劇団テアトルエコーに書き下ろした「日本人のへそ」で演劇界にデビュー。72年には、江戸戯作者群像を軽妙なタッチで描いた「手鎖心中」で直木賞を受賞。同年、「道元の冒険」で岸田戯曲賞と芸術選奨新人賞も受賞。以降、戯曲、小説、エッセイなど多彩な活動を続けて、戯曲「しみじみ日本・乃木大将」「小林一茶」で紀伊國屋演劇賞と読売文学賞(戯曲部門)、小説「吉里吉里人」で日本SF大賞、読売文学賞(小説部門)、また「私家日本語文法」「自家製文章読本」「井上ひさしの子どもにつたえる日本国憲法」などもベストセラーになっている。

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